▼ 発見と発覚
「ねぇ〜リョウタぁ、明日デートしよぉ?」
「はいはい」
「やったぁ!」
(貴方は誰を愛しているの?)
黄瀬くんは不思議な人だ。不思議だというか理解し難い行動を取ることが多い。
例えば、彼女ができても浮気性は治らず。ちなみに私は彼から告白された、珍しいケースだと聞いている
未だに私は名字で呼び合っているのに、他の黄瀬くんの取り巻きさんたちは下の名前で呼び合っているのだ
「黄瀬くん、練習は?」
「あー……気が向いたら行く」
「リョウター!」
「今行くー……じゃあ」
先程とは他の女子生徒に呼ばれ、去ってしまった。昼休みや放課後の彼のスケジュールはデートで埋まっている。部活もサボってばかり
私は彼と指折りで数えられるほどしか一緒に過ごしたことはない。
「仕方ない……」
彼にとって"彼女"という存在はパシリ程度にしか思っていないのだろうか
「こんにちはー」
「ん?おお、無月か」
「すいません、笠松先輩。練習中に」
「……黄瀬はまた休みか」
「……すいません」
バスケ部への報告は私の役目。彼が堂々と浮気を楽しんでいる間に、先輩同輩たちはバスケに勤しむ
笠松先輩はもう黄瀬くんがサボることに呆れ、私が来ると気を遣ってくれる。
「いつもすいません、ホント……」
「お前が謝んな。
あー……ひとつ、聞いていいか?」
「はい」
「なんで、黄瀬と、別れないんだ?」
グサリ、と心臓に笠松先輩の言葉が突き刺さった。
回りくどくなくて、ストレートな、純粋な疑問だったんだと思う。でも、私にとっては、これがいろいろなことのきっかけになった
「無月……?あー……わりぃ、気にすんな。忘れろ」
「考えたこと、なかったです」
「まじかよ……」
「そう、ですね。なんで、思いつかなかったんだろう。」
これほどに浮気をされて、なぜ耐えていたんだろう。黄瀬くんから告白されたから?黄瀬くんの彼女という肩書きを捨てたくなかったから?
嫌だ、もう、嫌だ。笠松先輩に感謝しないと
「おい、無月、大丈夫か?」
「笠松先輩、ありがとうございました。なんだかスッキリしました」
「お、おう……そうか」
「また、遊びにきていいですか?」
「いつでも来い」
笑いかけてくれた笠松先輩の笑顔は優しかった。
「リョウタ?」
「んー……」
「ちょっと、聞いてる?」
「んー……」
キャンキャンと猫なで声が崩れてるぞ、ブス。あー今頃はるかは何してんだろ。笠松先輩のとこ寄って帰って勉強?それとも読書?
はるかのことはいくら考えても飽きない。はるかの好きなこと、嫌いなこと、夢、ある程度は知ってる。恥ずかしいから顔には出さないけど、大好き。大好きで仕方ない
浮気だって、はるかを傷つけないために他で発散してるに過ぎない。俺が愛してるのはたった一人。はるかだけ
最近はずっと一緒にいなかったからな、明日あたりデートでも誘ってみよう。遊園地?水族館?行きたいところにどこでも連れて行ってあげよう
雑貨屋、本屋、レストラン、カフェ。他にもはるかと行きたいところはいっぱいある。俺の家にも誘いたい、できることならはるかの家にも行ってみたい
pipipi…
「ケータイ鳴ってるよ?」
「ん、おー……」
どうせ他の女だろうと思い、めんどくさかったがスマホを見た。画面に映っていたメールの送り元の名前に目を疑った
"はるか"
彼女からのメールので驚くのもおかしいが、彼女は自らメールをするタイプではなくて。実はこれがメアド登録以来初めてのメール
"話があります。今から会えますか?"
「……帰る」
「は?ちょっと、リョウタ?!」
返信を打ちながら足早にタクシー乗り場に向かう。彼女がいる場所の書いた返信が再度来て、急いでその場所に向かう
「……黄瀬くん、デート中にごめんね」
「別に……で?話、って?」
「あの、考えたんだけどね。黄瀬くん、私のこと好きじゃないよね。だから、その、別れ、よう……?」
この可愛い俺の彼女は何を言っているのだろうか。俺がはるかのことを好きじゃない?別れよう?え?思考回路がまったくついていかない
いつもよりぎこちない笑みを浮かべて、俺と視線を合わせない
「だって、私より他の女の子と一杯デートとかしてるし、最近……学校でも全然話、しないし」
「だ、からって……そうだ、明日デート行こうと思ってたんだけど、どこか……」
小さく、首を降った。
その場しのぎだと思われただろう。違う、違うんだ。全部違うんだ。ごめん、ごめんはるか
「なまえ、呼んで欲しい……」
「……はるか、」
「……ありがとう。じゃあ、さようなら」
名前呼んで欲しい。
俺は彼女の名前を呼んだことがあっただろうか?呼んだ記憶がないことにゾッとした
ああ、俺は彼女の中で最低な男だっただろう。構いもせず、浮気してばかりで。なのに彼女はいつも笑顔で、愚痴も言わず
気づくのが遅すぎた。手遅れになってから後悔するなんて
ごめん、ごめんね、はるか。愛してた
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