▼ 自慢の彼氏様ですがっ
「先輩が待ってるから先に行くね、いってきまーす!」
「いってらっしゃい」
「お待たせしました」
「んーん。全然待ってないから大丈夫」
この、言動までもがかっこいい彼は私の彼氏様。黄瀬涼太先輩だ
先輩の好きなところを挙げろって言われたらきりがない。とにかく先輩大好きっこなんだから
……まあ、そんなパーフェクトな先輩がこんな扱いが面倒臭い私となぜ付き合ってくれているのか、未だに謎なんだが誰か解決してくれないか
「いーですねーかわいーい後輩にかわいーい同輩を引き連れて?美味しそーなお菓子もらって。私の差し入れはいりませんよね。どうせ私は面倒臭い女です。先輩のところの主将さんにでもプレゼントしてきます」
「ちょ」
先輩はモデルさんだし、ファンを大切にしなくちゃいけないのは十分わかってる。わかってるけど……やっぱり嫌なものは嫌だ
ファンに囲まれる先輩を置いてスタスタと体育館へ向かう私。願わくば、すぐに追いかけてきて欲しかった
「なぁーに?あの子ウザっ」
「ごめんねー俺部活あるからさー。みんなー……ちょっとー……」
「赤司先輩」
体育館へ行くと赤司先輩が一人、椅子に座って資料を見ていた。珍しく他には誰もいない
「ん?ああ、はるかか」
「学校で呼ばないでよ、先輩のファンに殺される」
「心配するな、ここには俺たちしかいない。それに、手出しさせるわけないだろ?俺の可愛い妹に」
「……先輩ってば、シスコンでしたっけ」
ちょっと過保護な赤司先輩に引いた。手を出された人、ご愁傷様
ため息をつき、赤司先輩の椅子の横に腰をおろした。見上げるとすごい笑顔を見せられた
「今頃気づいたのか?俺はずっとお前が好きだぞ?」
「うわー、先輩まじ引きますー」
「棒読みなところが信憑性を欠くな。それで、なんだ?俺のところへ来るなんて珍しいが」
「ん。あげる」
「……これ、嬉しそうに朝、」
「あああああ!!!きーこーえーなーいー!!」
朝の出来事は忘れたい。あんなルンルン気分でラッピングしていた自分をいっそのこと、絶望に追い込んでやりたい
「……黄瀬と何かあったのか」
「…先輩、ファンの子に囲まれても満更でもない感じだし。差し入れとかも受け取っちゃって。何かあったらどーすんだって」
「お前は本当に黄瀬想いだな……。」
今時さすがに毒入りとかはないだろうけど、変な薬入りだったり、お腹壊したりしたら大変だ
「うーー…モデルさんだしそうしなきゃいけないのも、ヤキモチやきすぎてるのはわかってるし、扱いが面倒臭いのも自覚してるけどさー……」
「俺はお前がやりたいようにやればいいと思ってるし、手出しはしないと決めているからな」
「あーもう……先輩に嫌われたかも…」
ぎゅーっと自分の膝を抱え、腕の中に顔を埋める。もう泣きそうだ
「それ、毎回言ってるな」
「うるさーい。深刻なんだから……」
「黄瀬なら、もうじき来るだろう」
「そりゃあ部活だし…来るな、やっべ帰」
「それまでいるよな」
突然の俺様スイッチが入った笑顔の赤司先輩に、立ち上がろうとした私は阻止された。
「……赤司先輩、そんな俺様でしたっけ?」
「俺のいうことは」
「絶対命令ですよね。はいはい、わかりましたよお兄様」
「あ、はるかちんだー」
いつも通り大きな体が後ろから覆いかぶさる。だいぶ重いのでもう少し加減して欲しいところだが、まあいいや
「紫原先輩、こんにちは」
「はるかちん…いい匂いがするー…」
「今日はおやつ持ってませんよ?」
「んー…じゃあなんでだろー…あららー?その袋はー?」
「あっ……それは」
黄瀬先輩に、あげるはずだった差し入れのお菓子。赤司先輩にあげたが、紫原先輩の手に渡るとなるとなんだか嫌な気がした
「これは俺のだ」
「ちぇー。はるかちん今度お菓子ちょうだいねー」
「あ、はいっ」
「はるか!」
黄瀬先輩が、来た。あれ、鞄は?部活道具は?私を迎えに来たんじゃなくて、部活をしに来たんじゃないんですか?
なのに……
「はるかっ」
「ちょ、ちょっと先輩…!人目が」
「ごめん」
ぎゅっと抱きつき、耳元で言った。顔は見えないけど、声の感じでわかる。なんで、そんな悲しい顔をしてるんですか…?
「……何で謝るんですか」
「女子に愛想振りまいてごめん。ファンからすぐ逃げてはるかのとこ来れなくてごめん。差し入れもらってごめん。はるかのこと、ほっといてごめん」
「……先輩が、謝ることじゃないです。全部、私が悪いんですから」
伏し目がちに言えば、何か伝わったのか先輩はバッと顔をあげて私の目を見つめた
その美しい金色の瞳に、曇りを与えたくない。輝きだけを持っていて欲しい
「隠さないで言って欲しいっす!ぜんぶ、思ってること言って欲しい。はるかが思ってること知りたい」
「…も、先輩に嫌われたかもって思って、先輩に別れようって言われたらどうしようって、すごく、すごく怖かった!先輩がほかの女の子のところに行ったら、どうしようって……先輩、どこにも行かないで…!わがままで自分勝手なのはわかってるけど、まだ、近くにいて欲しい…」
タガが外れたように一気に口から飛び出す言葉たち。私はこんなことを思っていたのか、無自覚だった部分も吐き出した
「それだけ?」
「それだけ、って……?」
「女の子と話さないでー、とか差し入れもらわないでー。とか?」
「前者は……無理、だし、そんな束縛したくないですし。でも後者は……先輩が、欲しいなら貰っていいんじゃないですか」
「ホントに?」
意地悪に笑う。先輩はたまにこんな表情をするから、惹かれる。見惚れる
おそらく私だけが知っている、黄瀬先輩のこの表情。そう考えたら正しい判断なんかできっこない
「〜〜ッ!い、や、ですっ…ホントは、嫌ですけど……それ、ないと足りないですよね」
「んーはるかっちが作ってくれれば問題ないんじゃないっすか?」
「……は、い?え、あの子たちのくれる分を毎日作れと」
「いや、別にあれ食べてないっすから」
「??」
毎日大量に貰うあのお菓子やらフルーツやらはじゃあどこに?捨ててるとか?なんてもったいない!
「ぜーんぶ、紫原っちのお腹の中っす」
「紫原、先輩…?」
「だーかーら、俺ははるかの作ったのしか食ってねぇの」
「ッッ!?」
「あは、かーわいい。」
でこちゅーされた。おでこをおさえ、顔を赤くすれば唇の端にもちゅーされた
「せっ、先輩っ」
「やっば…抑え効かない」
「は!?ちょっ、ここ体育館でっ…」
「そこまでだ黄瀬」
「……赤司っち」
ひょっこり現れた赤司先輩は、スタスタと私に近寄ってきてデコちゅーした
「赤司っちぃいいぃ!!?!?」
「赤司先輩、なにさらしてくれてるんですか。殴りますよ」
「いいじゃないか、家族団欒のひと時だ」
「は……?か、家族団欒?」
なぜこのタイミング……なんだ、あれか?付き合うならお兄ちゃんの許可をえなさい!みたいなあれか?
「違いますよ、先輩。赤司先輩はきっと妄想癖なんです」
「は?へ?」
「何を言う、れっきとした兄妹じゃないか。朝のいってきますって」
「あーもう!お兄ちゃんは黙ってて!」
あ。
や ら か し た
「お、お兄ちゃん……」
「ちっ…違うんです!黄瀬先輩!これは、その…。」
「やっべぇ…お兄ちゃんとかまじ萌える」
「は?」
「了解っす!」
何が!?
うーんと、とりあえず恐れていた結果はなかったのでいいとするか。
それからもちょーラブラブな、毎日を送りましたとさ。ははっ。
めでたしめでたし。
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