rain drop 雨だれ


フェリートは自分の膝の上で意識を失ってしまった悪魔を見て、動揺していた。
いつも悪魔らしい白い肌の彼だが、今は白いを通り越して青い。


このままでは、死んでしまうのではないか。
天使の自分を庇ったせいで悪魔が死ぬ。

フェリートは、クロウの顔へ手を翳した。


「癒しよ」


手から暖かい光が溢れ出し、クロウを照らす。外が騒がしいので、誰かがもうすぐ来るはずだ。
それまで自分で何とかしようと思った。
クロウが居なければ、自分は死んでいたのは間違いない。今も絞められた首が傷んだ。

悪魔の意識はもちろん、顔色も戻らない。


「天よ、癒しを。お願いしますっ。もっと……!!」


自分の力では足りない。
もっと強力な、あの人の様な力が必要だ。
勝手に目に涙が滲んでくる。


「ラファエル様、ラファエル様、助けてください」


その時、部屋の扉が勢い良く開いた。


「ここか……!!」


息をきらして、入ってきたのはラファエルだった。


「ラファエル様っ!!助けてくださいっ」


フェリートは必死の形相でラファエルに言った。
ラファエルは、フェリートの膝の上で意識を失っているクロウを見て驚きで目を開く。


「息は?」

「あります、ただ悪魔に血を奪われたのかもしれませんっ。」

「フェリート、手伝ってください」

「はい!」


ラファエルもフェリートのように、クロウへ手を翳し強力な癒しの光を放つ。


「あ、顔に赤みが……!」


フェリートは、ほっと一息つく。
意識は戻ってはいないが、このまま死んでしまうということは無さそうだった。


「クロウ」


ラファエルは囁くように声をかける。
フェリートはそのラファエルの表情に息をのんだ。
切ない、まるで愛する人をを心配するような表情だった。

ラファエルとクロウが会話するのはいつも見ているが、2人の会話は端的であり、特にラファエルが感情的にクロウに話している所は見たことがなかった。
しかし、2人はほぼ24時間共にしている訳で、もしかしたらフェリートが思うよりずっと深い関係なのかもしれない。
何せその昔、ラファエルはクロウを滅せずに天界へと連れ帰ったのだから。


「目を開けてくれ」


いつの間にかラファエルは、クロウの手を両手で握り祈っていた。


「ラファエル様……」


フェリートは何と声をかけたら良いか分からなかったので、空いている方のクロウの手を握り神に祈ることにした。
早くあの赤い目を開いて欲しい。
普段はとても恐ろしく忌まわしい存在だが、まだお礼を言っていないのだ。


そこへ、おそろしいほどの聖気が突然立ち込める。


「2人の美しい天使に祈ってもらって、幸せものだな」


ラファエルは突然現れた美しい天使に、頭を下げる。


「セラフィム様、なぜここに……」


ラファエルでさえも、滅多に会うことのなに熾天使がここに現れたのだ。
それほどの事が起きたのか、それとも……。


「ラファエル、そいつの顔を見せろ」


ラファエルはクロウの手を離し、場所をあける。
フェリートは初めて見る熾天使に、声も出せずにいた。


「まさか、お前がやられるとはねえ。ラファエルが死にそうなほど心配しているんだ。目を覚ませ」


セラフィムはぐっと、クロウに顔を近づけそのまま口づけた。








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