極妻を見るよ(阿波野)
金にモノを言わせたのか館内は顔見知りの組員と自分たちだけの貸切だ
上映まで少しあるのでめいはポップコーンをかじりながらパンフレットに目を通す阿波野に話しかけた
「大ちゃんは本職さんなのにヤクザ映画見るんだね」
「いつもは嘘臭え話に興味ねぇけどな。主演がいい女でよぉ。やっぱり志麻はいいわ」
主演女優のページをニヤケ顔でじっくり見ている
確かに女の目からしてもキリッとしてて素敵な女性だけど、そんなに他の女性を褒められるとあまりいい気はしない
「私も着物着てみよっかなー」
「やめとけやめとけ。まだ着物に着られんのがオチだ」
「なによ大ちゃんの意地悪」
ブザーが鳴って館内が暗くなった
めいは妻ではなかったが極道の女である以上、フィクションでも他の女がどんな感じなのか見てみたかったので内容は面白かった
濡れ場のシーンでは阿波野の手があらぬ所に潜り込んでくるので声を出さないよう耐える必要があったが
ラストでは極道の世界で生きる事の厳しさを痛感してしまった
自分の身にも起こる事なのだと考えるとゾッとして阿波野の腕を手繰り寄せた……が
「なんで泣いてんの?」
「…やるじゃねぇか。グズっ」
阿波野の手のひらは目元に固定されてビクともせず、俯き姿勢になったまま一向に動く様子を見せない
「兄貴を守れなかった悔しさと、サツや抗争相手の人だかりの中、鉄砲玉やってでも兄貴の敵を取ったアイツの男気を思うと熱いもんが来ちまってよ。あのまま生き残れたらアイツは必ずビッグになるぜぇ」
ラストの可愛い顔した舎弟くんの行動に心打たれたらしい
濡れ場で火照った体などとうに冷めてしまいその日は阿波野の背中をさするだけで終わった
めずらしいもんが見れたなーと案外悪くない日だった
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