コンビニにて(城戸)
いつものコンビニ前の喫煙所に赤いスカジャンを着た男が居た
先ほど買ったばかりと思われる新しい煙草を開けている
駆け足にならないよう、でも居なくならない内にいつもよりほんの少し速足で歩いた
「こんばんは」
「ども、今日も残業ですか」
「はい、そっちは仕事中?」
「ええ。こっちは夜が本番なんで」
軽く会釈をしてコンビニに入る
どうせもう夜も遅いし後は寝るだけだとフルーツ入りのヨーグルトとペットボトルの水を買って、まだ1本目を吸い終わってない城戸の横に並ぶ
顔を背けられたがすぐに煙がこっちに来ないようにしてくれたのだと分かった
水で喉を潤わせてから話しかける
「それ美味しいですか」
「あー……どうすかね。せいさんは吸うんですか」
「いえ、でもどんな味か気になります」
「そっか」
そっぽを向いていた顔がこちらを向き、凛々しい眉と切れ長の目が見えたと思ったらすぐに近すぎて見えなくなった
彼の唇がめいの唇を捉え、ざらりとした柔らかい舌が入ってきた
軽く絡めるように動くと屈み込んでいた背筋を戻しスッと離れていった
そして何事もなかったかのようにその手に持っていた煙草を口元に運んでいる
あまりにも自然すぎて一瞬前の出来事が自分の妄想かと思ってしまった
「どうでした?」
「苦い」
からかわれたのだろうか、喉の奥でクッと笑う音が聞こえた
オールバックで服装もヤンキーそのものなのに、笑うと可愛くてとっつきやすそうに見える
次に何と話しかけようか迷っている内に彼の携帯が鳴って、短い逢瀬の終わりを知った
電話の相手は上司なのだろう、ピッと背筋を伸ばして受け答えをしている
通話が終わったところを見計らってそれでは、と別れを告げようとすると携帯の画面を突き出された
画面には持ち主の電話番号が表示されている
「また変なのに絡まれたらこれにかけて下さい」
慌てて自分の携帯を取り出しその番号をコールすると彼の携帯にめいの番号が表示された
「せいさんって夜更かしですか」
「お休みの前の日は。ちなみに明日はお休みです」
「じゃ後で」
城戸は満足そうな顔をするとまた、と声をかけて繁華街の方へ向かっていった
赤い背中を見送って、忘れないうちに携帯の発信記録に残る番号を登録する
心臓が早鐘を打っているのが自分でも良くわかる
まだたった2回だ
だけど恋かどうか判別するにはそれだけで十分だったようだ
どうやら今日は寝られそうにない
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