君の答え(秋山)
職業病だろうか。ふいに人を試す発言をしてしまう事がある。
向かいの椅子でゆったりとコーヒーを飲むめいに問いかけてみた
「めいちゃんさぁ、もし俺に1000億の借金があったらどうする?」
「自己破産してください」
簡潔で明瞭な回答だった
「んん〜ちょっと多過ぎたか。じゃあ1億ならどう?」
「都内に新築戸建が買えるくらいですね。秋山さんなら返せそうじゃないですか。頑張って下さい。」
やはり即答だった
「なんか冷たいなぁ。『私が養ってあげるわ』とか『あなたの側で支えてあげたい』とか言ってくれないの?」
「自分の借金は自分でケジメをつけるものですよ」
「クールだねぇ。じゃあ逆に1000億持ってたらどうする?」
真剣に取り合う気が無いのか、それとも本当にそう思っているのか
表情一つ変えないめいに、面白くなって更に会話を続ける
現実的な彼女の事だから手堅く貯金とか資産運用のアイデアでも出してきそうだ
「よく頑張りましたってヨシヨシしてあげます。」
お母さんじゃないか
「だってそんな大金稼ぐの大変でしょう。毎月20万稼ぐのも苦労が耐えないのによくやったなぁと思いますよ」
「それだけ?」
「足りないですか?じゃあどうしよう」
かわいい目と目の間にしわを寄せて考えていたが、すぐに思いついたようで
ちょっと頬を緩めた
「お疲れ様ってお風呂で背中流してあげますよ」
お父さんじゃないか
思いもよらない答えにブッと笑いが漏れてしまった
本当に平和な家庭でまっとうに育ったのだろう
媚びるような様子もなければ、瞳をのぞき込んでもそらす様子もない
「億万長者だよ。おねだりしないの」
「しません。あんまり欲しいものないし」
スッとめいが椅子を離れ秋山の目前に立つ
腕を引き寄せ膝の上に座らせる
向かい合って腰に手を回すと、首に手を回して抱きついてきた
「お金はあれば便利ですが私はこれだけあれば良いんです」
「俺?」
「あなたと居られるならお金があろうとなかろうと」
金で人生が変わる所を何度も見てきた
でもこの子は何も変わらないと言う
あなたが居れば他に何もいらないの、なんてありきたりで陳腐な言葉だけれど
めいなら真実にしてくれるだろうか
「じゃあ最後まで見届けさせてもらう」
「死が二人を分かつまで?」
「そう願うよ」
願いを込めて口づけを一つ落とした
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