よし決めた!(立華)
うちの喫茶店は同じビル内に限りデリバリーをやっている
今日の注文は紅茶を1つ
きっとあの人の注文だ
社長さんなんて職種、雲の上の人過ぎてまともに話したこともない
でも折よく今日はバレンタイン
挨拶以外で話すきっかけになりますようにとチョコを添えて持ってきた
チャイムを鳴らすといつもの彫りの深い男性がドアを開けてくれた
「俺はこれから出るから社長に持ってってくれるかな」
彼はトレイに乗ったチョコレートを見てにやっと笑い、頑張れよと声を掛けて出て行ってしまった
ラッピングもしていないのに個人的に用意したチョコだってわかったんだろうか
まさかと思うけど勘の良い人だから私の緊張を気づかれたのかもしれない
いつも通りにふるまえるように一度深呼吸をしてドアを開ける
「失礼します。ご注文の紅茶をお持ちいたしました」
室内に入ると社長さんの視線が私に向けられた
サイドボードにトレイを置いて、デスクにカップとソーサーをセッティングする
いつもより一つ多い小皿に気づいたようだ
「ありがとう。これは?」
「バレンタインなのでサービスです。このチョコレート香りと口どけが良くて美味しいんですよ。あ、あの甘いものお嫌いですか?」
「いえ、好きですよ」
優しい笑顔を向けてもらうと顔に血液が集まって目の前がグルグルする
スマートに微笑んで帰ろうと思っていたのにタイミングを逃してしまった
いつも何て言って退出してたっけ
「あなたは?」
「はい?」
「好きなんですか?」
好きってなんの話でしたっけ好きっていうかまだ憧れっていうかそこまでもう言っちゃっていいのかなと頭の中もグルグルして何と返答して良いかわからなくなってしまった
「チョコレート」
「あっ………!はい!チョコレート好きです。どのチョコにしようか迷ってすごくたくさん買い込んじゃってでもたくさん食べられて幸せでした」
口が滑って言わなくても良いことまで話してしまった気もするが何とか無事に会話を、挨拶以上の会話を交わすことができた
そのまま勢いで失礼しますとご挨拶して慌ててお部屋を飛び出した
ドアを閉める前にクスッと笑い声が聞こえたかもしれないけどきっと気のせい
***
もう仕事上がりでしょ代わるよ、という同僚の気遣いを断って先程の不動産屋さんまで食器の片付けに行く
もう一度社長さんと会えたら、という願いは叶わず事務所には他の人しか居なかった
がっがりとした気持ちは、トレイを見て吹っ飛んだ
ティーカップの横に一輪の薔薇
メッセージもついてないけれど黒いリボンはあの人を連想させた
次に会った時にはお礼を言ってみよう
あの優しい微笑みで肯定してくれるだろうか
浮かれた拍子にカップを落とさないように帰路についたが、ニヤつく顔は抑える事が出来なかった
ハッピーバレンタイン!!
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