重なる影(西谷)

___ほまれちゃんまたケンカしたん?
___お父ちゃんにタイホされてまうで

___放っとけやガキンチョ

___おてて血でとるよ
___ウチ シールもってる

女の子は絆創膏を自慢げに見せつけた
それは返り血で怪我などしていないのだが、モタモタとした手付きで手当てするのを振りほどきはしなかった

___ほまれちゃんはだめやなぁ

いっちょ前に世話を焼いて、ちんまい女の子は笑った




次に会った時は四角い箱の中で
白い花に囲まれた写真はその時見たような笑顔だった



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少しも昂ぶらない喧嘩を終えて、公園でタバコを燻らせていたら道の向こうから紺色が近付いてくるのが見えた

「あっ、誉ちゃーん!探しとったんやで!」

セーラー服をはためかせながらニコニコと手を降って来るのはめいだ

「なんやぁ?めいちゃんやん
 なんかええ事あったんか?」

「ふふーんこれ見せたら驚くやろな
 きっとウチのこと天才やって褒めたくなってしまうわ」

手にもつ紙をチラつかせベンチの周りを踊るように回る
この少女と初めて会ったのもこの公園だ
何が気に入ったのかわからないがやたらと西谷に懐いている

「じゃじゃーん!なんと蒼西高校の特待生に受かってん!」

高校なんて遠い昔でなおかつ退学している西谷にはそれがどうすごいのかわからず「ほお」という気の抜けた返事になってしまった
それが気に入らなかったのかめいは隣にドカンと腰掛けすっかりブスくれてしまった

「誉ちゃんが家計気にしてバイトなんかせんと自分のやりたい事やれ言うたやんか
 せやから勉強頑張ってレベル高いとこ受かったんやで
 し・か・も、特待生って授業料全額免除なん!
 もー自分の夢叶えて親にも楽をさせるなんて子供の鑑やないですか
 『末は総理大臣やー』とか褒めて欲しいねん!」

怒ったと思ったら自画自賛したり忙しなくて見てて飽きることがない
西谷から見てもめいは結構なお気に入りなのである

「そら悪かったなあ。すごいすごい。
 よっしゃ!お祝いに飯でも食いに行こか。何がええねん、寿司か?蟹か?」

「そう来なくちゃ!パーラーでこーんな大きなパフェ食べたい!」

「なんでやねん。もっとええとこ行こうやあ」

「だって5人前はあるんやで。一人で食べ切れへんし誉ちゃんと一緒に驚きたかってんもん」

シュンとするめいには勝てないと、めいの手を引こうとしたが拳に返り血が付いているのに気が付いた

「あっ、誉ちゃんの手ぇ血出とるよ
 ウチ絆創膏もってる」

遠い昔に聞いたようなセリフに反応が遅れる
今回もまた返り血であると言う事はできずに手の甲に絆創膏を貼られてしまった

「誉ちゃんは駄目やなぁ」


その笑顔で高校生だったあの日に引き戻される
大人なのに喧嘩ばっかりしとる、恨み買ってまうで、と話は続いているが頭には入ってこない
さっき掴めなかった手を今度はしっかりと掴み、確かめるように抱きしめる
大丈夫やこの子はここに居る


「ちょっ、誉ちゃん、ここ人前やし!
 そんなウチまだ心の準備が……!」

「めいちゃん」

「はいっ」

「何かあったらすぐワシを呼べよ」

「はいっ」

「危ないことするんやないで
 夜のバイトなんか以ての外や」

「はいっ」

「ずっと守ったるからワシの目の届くとこに居り」

「……っ、はい!」

「ほなパフェ食べに行こか
 なんや顔赤いで熱でも出たか」

ふわふわと歩くめいの手を引きパーラーまで連れてきたが、結局パフェはほとんど手を付けないうちに溶けてしまった

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