マウンティング(佐川)

「めい、そろそろ俺の女になれよ」


グラスを滑らせそうになったのを水滴のせいにして、お絞りで拭う間に返す台詞を考える
顔は見ないがきっと眉間に皺を寄せた少し不機嫌そうな顔で私の挙動を観察してるはずだ
動揺したのを悟られないよう、笑顔で軽く受け流す


「あら嬉しいこと。でも他の娘達にも同じ事言ってはるんでしょう」

「俺はいつだって本気だよ?あとはお前がうんって言やあそれでいい」

「ほな私がお婆ちゃんになっても独り身だったら拾ってやってくださいな」

「つれねえなあ。いくら通っても全然落ちやしねえ」


先程の真面目な様子からふざけた口調に変わったのを聞いてホッとする
この人の言う事は本気にしてはいけない
飄々とした人当たりの良さそうな顔をして、笑っていてもどこか冷めている
先程の口説き文句もただ喜んで見せれば良いのだろうが何となくそう出来ないでいる
その筋のお偉いさんだというのは抜きにしてもなんだか怖い人だという感覚は拭えない


「今日は帰るわ。外まで見送ってくれよ」


エレベーターから外へ出ると早々に「じゃあな」と声をかけてきたので深々と頭を下げる
顔を上げるとまだそこには佐川が居て、何か忘れ物かと尋ねると煙草の香りの残る手で顎を掴まれた


「俺は犬じゃねえから、あんまり待てが続かねえんだ」


目を合わせてしまうともう逸らすことは出来なかった
佐川の唇がそっと触れ愛撫するように優しく唇の上を動く
意外なほど優しいキスにため息を漏らすと、その隙間からぬるりと舌が滑り込む
撫でるように口の中を探られ舌を吸われるとその気持ちよさに頭の芯が蕩けそうになる
いつの間にか腰に回されていた手は徐々に背筋を登り、
襟足の髪の毛を掴まれるとぞくぞくとしたものが身体を駆け抜けていった
反応に満足したのか佐川は下唇を軽く噛むとあっさりと離れていった


「またな」


まだジンジンと痺れる下唇を舐める
外の風に当たっているのに顔の火照りが収まらず店に戻ることも出来ない
佐川の後ろ姿が人混みに紛れて見えなくなるまで、化粧の崩れた顔を晒す羽目になった


次に同じ事を問われた時にNoと言える自信は無い

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