02


ひと通り喋ったあと、百瀬は「ふーん」と、何かを考えるように言った。まぁ、そうだろう。結局は30近い男が弟家族の中に引きこもっていた話だ。夏久の話なんて、到底は出来ないから話すこともさっぱりとしていた。

百瀬がまだしばらく考え込んでいるそれに少し疑問を持ちつつ、彼を待った。

「お前それで幸せなの?」

急に百瀬に問いかけられ、困惑しつつ話を続けた

「え、幸せだよ。すごく。家族がいてくれるし」

頭に浮かぶのは、夏久と漠さん、悠太のいる食卓だ。俺が部屋から出るようになって、漠さんとローテーションで家事をして、みんな美味そうにご飯を食べてくれて、みんなの話を聞いて、楽しくて、

「やっと...」
「それほんとに言ってんの?」

あまりの冷えた言葉に、細い針のようなものが胸に刺さったような気がした。公園で遊ぶ、小さな子供の笑う声が嫌に耳につきささっている。懸命にそれを耳から離そうと、話を続けた。

「え、なにが...」

震える声を押さえつけるように言うと、百瀬は真剣な目をして俺に続けた。

「家族ってお前それ弟の家族だろ?お前の家族じゃない。ずっとそこで世話になるのか?長男のお前がか?そりゃ、お前...甘え過ぎなんじゃないの?」

言葉がばらばらになって頭に入ってくるの堪え、じっと理解しようと集中して話を聞いた。

「なぁ、ちゃんと考えろよ自分の将来ぐらい...一人暮らしぐらいしとけよ。弟の世話になるなんて情けないだろ?仕事もしてねぇんだろ?5年間?ほんとに何もしてないのか?復帰難しいんじゃねぇの?履歴書どうするつもりだよ」
「あっ、えっと...」
「少なくとも桜見てる場合じゃないだろ。今すぐにでも行動しなきゃいけないだろ。人生甘く見すぎ」

ゆっくりと、ゆっくりと解けてばらばらになりそうな心を押さえつけ、必死に言葉を探した。

見れない。

百瀬の顔が見れない。

酷く息が苦しくなって、泣きたい気持ちになってきた。

堪えろ。

堪えろ。


「まぁ、でも、今から頑張らないとな!」

心を押し付けて笑ってみたが、百瀬は真っ直ぐこちらをみる。鋭く、明るい今を持った、正義の目。

俺を見ないで。見ないで。

心の中で何度も繰り返した。

「...お前、ほんとに大丈夫かぁ?」
「うん、もちろん...」
「何をそんなに焦ってんだよ、もっとしっかりしろよ」
「ごめ...」
「いや、俺に謝られても困るし...自分の事だろ?」

胸の中がひんやりと冷たくなる。手の力が入らなくて、感覚すら失ってきた。

「ずっと五年間世話になってんだろ?弟家族に。それってお前、普通に考えて迷惑だろ...」

ここにいたくない。

頭の中でむくむくと感情が大きくなって行った。早く帰りたい。帰って、みんなに、ごはんを...でも、でも、そうだ...




俺は、ゴミだった。



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