Over
大ちゃんと過ごした2年半、オレは夢中で走ってきた。
accessがオレの全てで、大ちゃんだけを見ていた。
少しずつお互い違うものが見えてきて、オレはaccessとは違う音楽を目指したくなって。
不器用なオレにはaccessを終わりにして大ちゃんとの関係を続ける自信なんてなかった。
***
「はいOKです」
スタッフの言葉に、オレはほっと肩の力を抜く。
ガラスの向こうのウツさんを見るとにっこり笑ってピースをしてくれた。
ウツさんがアルバムのコーラスに呼んでくれて、今日はレコーディングでウツさんのスタジオに来た。
accessを終わらせることを決めてから、落ちたり上ったりをくり返していたオレにウツさんの傍は気を抜ける場所だった。
「お疲れさま。今日はありがとう」
ブースから出るとウツさんがくしゃくしゃとオレの髪を撫でる。
「今日はこれで終わりでしょ?お礼に飲みに行こっか」
にっこり笑ってくれるウツさんに、オレも笑顔で応えた。
「ねぇ、大ちゃんとはどうなの?最近」
居酒屋とバーとハシゴして、今はウツさんの家。
相変わらず顔色ひとつ変わらないウツさんがオレに聞いてきた。
…この人の心は読めない。
昔よくオレにちょっかい出して面白がってたから大ちゃんとの関係も気づいてたみたいだけど…。
嘘ついても仕方ないか。
「最近は会ってないです。大ちゃんも忙しいし、オレはaccessとは違うことをやりたいし」
大ちゃんといるとaccessを終わらせる決意が揺らいでしまいそうな気がして、オレは大ちゃんを避けていた。
「淋しいの?」
ウツさんのその言葉にオレは戸惑う。
「なんで…」
なんで、そんなこと言うんだろう。
「そんな顔してるから」
「え?」
考えてるうちに、気づいたらウツさんはすぐ近くにいた。
あ。またこの感じ…。
「ウツさん…また、冗談でしょ?」
大きな手で頬に触れる。
顔を上げさせられて、視線がぶつかった。
やっぱりわからない。この瞳は。
「もう冗談はやらない。本気だよ」
なんでこうなるんだろう。
オレは男なのに。
大ちゃんとそういう関係になってから、男女の境目が曖昧になってしまったみたいだ。
ウツさんだから?憧れだから?
なんで、抵抗できないんだろう。
「ん…」
口唇が重ねられる。
「……っ」
体を竦めたオレの背中にウツさんの手がまわされて、身を引くことを許さない。
大きな手。
大ちゃんと違うんだって、オレはそんなことを考えていた。
どうしていいのかわからないまま。
オレはウツさんの背中に手をまわした。