UNBALANCE | ナノ
UNBALANCE


大ちゃんと出会って、オレは初めて男を好きになった。

初めて男に抱かれた。

大ちゃんだから。
愛してるから。愛されてるから。

大ちゃんだけ。
特別なんだって思ってた。

なのに。
あの人が現れて、全てが壊れた。



興味本意か、暇つぶしか。
きっとそんな理由だったんだと思う。

でもオレは本気になってしまった。

オレを愛してないことはわかってるのに。

オレは、愛してしまった。





「ヒロ、おいで」

優しい声が、オレを呼ぶ。

その甘い響きに酔わされてオレは誘われるままその腕に抱かれる。

こんなはずじゃなかった。

ただ憧れてただけだ。
恋愛感情なんて、抱くはずないって思ってたのに。

「ウツさん…」

その腕に抱きしめられていることがただ嬉しくて、オレは甘えるようにしがみつく。

「可愛い、ヒロ」

ウツさんは小さく笑ってオレにキスをする。

その口唇も、この腕も。
オレだけに触れていて。

他の誰のものにもならないで。


抱きしめてもらえることが。
オレを見て、名前を呼んでくれることがただ嬉しい。

きっとウツさんはオレじゃなくてもいいのに。



「ん…ウツさん…」

伝えたい言葉が溢れてしまいそうで。
熱を持て余してウツさんの首に抱きついて力を込める。

愛してるって。
いつも大ちゃんに言っていたように言えたらどんなに楽だろう。

僕もだよって、大ちゃんが言うみたいに言ってもらえたらどんなに幸せだろう。


だけどオレたちにそんな言葉はいらない。

ウツさんがオレに求めてるのは肉体的な快楽だけだから。


想いを伝えてこの関係が壊れるくらいなら。
傍にいられなくなるなら。

このままでいい。





シャワーから戻って、散らかっていた服を身につける。

ウツさんはまだベッドの上で煙草を吸っていた。

「今日も帰るの?」

オレは黙って頷く。

「たまには泊まっていけばいいのに」

そんな言葉が、またオレを惑わせる。

素直に甘えられたら、その腕に縋りつけたら…。

「おいで」

ウツさんは煙草を灰皿に預けるとオレに手をのばす。

その声に、戸惑いさえ無力に変わっていく。

オレを抱きしめて、髪を撫でてくれる大きな手が愛しくて目を閉じる。

このままずっといられたら。
抱きしめられたまま朝を迎えられたら。

本当の気持ちは全て胸の奥にしまって、オレは体を離した。

触れてる間はあんなに幸せなのに。

離れた途端、温もりと共に幸せも消えていく。


***


突然押しかけたオレを大ちゃんは優しく迎えてくれた。

オレが今までウツさんと会ってたって、抱かれてたって、きっと気づいてるのに。



「大ちゃん…」

甘えるように手をのばすと優しく抱きしめてくれる。

触れた口唇から、抱きしめられた腕から愛されてることが伝わってくる。

オレはもう違う人を見てるのに。

「ヒロ…好きだよ」

前は幸せを感じられたその言葉も、今は胸を締めつける。

それでもその言葉を聞きたくて。
オレは応えられもしないのに大ちゃんに縋りつく。

「…いい?」

シャツのボタンに手をかけた大ちゃんが不安そうにオレを伺う。

「うん…大ちゃん、抱いて」

愛されてるって実感したくて。
心を満たして欲しくて。

オレはまた堕ちていく。


End.

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