君のためにできること
『今から来れる?』
一日の仕事を終えて家に戻って。
数時間前まで一緒にいた大ちゃんから電話が来たのはとっくに日付も変わった頃だった。
まだ大ちゃんは家でも仕事してたんだと思ったら行かずにはいられなかった。
それに、いつもこうして二人で作り上げてきたんだ。
***
「ごめんね。こんな時間に」
「オレはいいけど…大ちゃん、ちょっと顔色悪いよ。大丈夫なの?」
「…そうだね。ずっと、無理してたから」
そう言って笑顔を作る大ちゃんは、やっぱり元気がない。
…そんなに一人で無理させてたのかな。
「ごめん、オレずっと一緒にいるのに気づけなくて…」
「ヒロのこと、欲しいんだ」
オレの言葉を遮るようにそう言って、大ちゃんはオレの腕を引っぱった。
「ん…っ」
腕を捕まれ抱きしめられて、オレは口唇を塞がれる。
「っ!や…っ」
最初は何が起こったのかわからなかった。
大ちゃんの舌が口の中に入ってきて我に返ったオレは大ちゃんの体を突き放す。
「なんで…大ちゃん…?」
「言ったじゃない。ヒロが欲しいんだよ。僕は…」
「ダメ…っ」
慌てて大ちゃんの言葉を止める。
「ダメだよ…それ以上言ったら…」
今の状況をやっと理解してきたオレは大ちゃんの言いたいことがわかった。
――聞きたくない。
「言ったら、全てがダメになる?」
そう言って、大ちゃんはまた凄い力でオレを抱きよせた。
「もう、遅いんだよ」
気づいたら床に組み伏せられて、大ちゃんがオレを見下ろしていた。
「や…嫌だ…っ」
「痛っ…」
逃げようとしたオレの腕が大ちゃんの顔に当たって、ブレスの石が頬を傷つける。
白い肌に赤い血が怖いくらいに綺麗で、オレは背筋が凍りつく気がした。
「ヒロ…大人しくしてくれないと僕も加減できないよ」
大ちゃんは手の甲で血を拭うと、片手で器用にネクタイをほどいた。
「何…やだっ!!」
オレの抵抗なんて全く意味ないくらい、大ちゃんはその体のどこにそんな力があるのかってくらいの強さでオレを押さえつけるとネクタイで両手を縛り上げる。
「痛くないよね?暴れちゃダメだよ。ヒロの綺麗な体に傷つけたくないから」
言いながらオレの頬に手をのばす大ちゃんの笑顔は、触れられた手と同じように冷たくて。
全然、知らない顔だった。
大ちゃんの手がオレの体に滑り降りて、シャツを引っぱる。
ボタンが取れて床に落ちた。
「――…っ」
自分に起きていることがもう信じられなくて、逃げようと思っても体が動かない。
大ちゃんはオレの上に跨がると胸に顔を近づけて舌や指先で刺激を与えてきた。
「や…あ…っ」
「ヒロ、感じてる?ヒロのイイ声聞かせてよ」
大ちゃんの掌が脇腹の方へ滑る。
恐怖なのか快感なのかわからない震えが体に走った。
夢なら早く醒めて欲しいと思った。
でも大ちゃんが触れる度に現実だと思い知らされる。
家族よりずっと一緒にいたのに。
恋人より、どの友達より近くにいた。尊敬してた。
大好きな大ちゃんにこんなことされるなんて。
今起こってることを現実として受け入れるしかなくて、悔しくて涙が零れる。
「やめてよ…オレ大ちゃんのこと嫌いになりたくない」
「嫌いになってくれて構わないよ」
「どうして…?」
「憎まれてでも忘れられるよりいいから」
あまりにも自分勝手な大ちゃんの言葉に悲しくなる。
「泣いてもやめてあげないよ」
「…酷いよ、最低」
「いいよ。もっと言ってよ。ヒロのためならいくらでも壊れられる」
睨みつけても、蔑みの言葉を投げても大ちゃんにとっては快楽の誘いになる。
オレの知ってる大ちゃんはもういないの?
「……ヒロも気持ちよくなれたらよかったんだけど」
大ちゃんが体を離して、オレはほっと息をついた。
でも次の大ちゃんの言葉にまた凍りつく。
「感じてなかったら痛いと思うけど…我慢して」
「――っ!」
大ちゃんがオレのベルトに手をかける。
「やだっ!やめて…大ちゃんっ!!」
両手を縛られて抵抗できないオレは必死で叫ぶけど、大ちゃんは聞き入れてくれなかった。