Crazy for you
憧れていた、その人が近くにいる。
無防備な寝顔を可愛いとさえ思える距離に幸せを感じていた。
この想いが。
今感じていられる幸せがあるなら例え夢でも構わない。
そっと顔を近づけて口唇に触れてみる。
「ん…おはよ、ヒロ」
その感触で目を覚ました隆はヒロを自分の胸に抱きよせる。
「早起きだね、ヒロは」
まだ眠そうに目を擦りながら、のんびりとしたその言葉にヒロは笑った。
「ウツさんの可愛い寝顔見てました」
「…ヒロに可愛いって言われてもなぁ」
呆れたように首を傾げるその表情も、ヒロは可愛いと思った。
テレビや写真では見せないような顔を、ずっと見ていたいと願う。
「俺にも、ヒロの可愛い寝顔見せてよ」
隆は体勢を変えてヒロを自分の体の下に収める。
「どうしても、先に目が覚めちゃうんです」
近づいた距離に、自然と触れ合うキスの合間にそんな言葉が零れた。
「起きたときウツさんがいなかったらどうしようって、不安だから」
一瞬眉をしかめた隆は、それでも優しくヒロの頬に触れる。
「いなくなると思ってるの?」
その手に、ヒロは自分の手を重ねた。
「…オレ、TMNのライブ行ったんです」
「知ってるよ。EXPOでしょ」
隆の言葉にヒロは首を振る。
「もっとずっと前。自分でチケットとって。その頃から、ウツさんに憧れてたから」
手をのばして、ヒロも隆の頬に触れる。
「初めて声かけてもらった日から、ずっと夢見てるみたいです。同じステージに立てたのも、今も。まだ夢みたい」
慕ってくれているのは知っていた。
けれどヒロのそんな想いは隆にとって意外だった。
「…まだ、信じられない?」
ヒロは笑って頷いた。
「いつも思ってます。夢でもいいから、このまま覚めないでって」
「夢なんかじゃないって教えてあげるよ」
口唇を重ねると、息苦しいほどのキスがくり返される。
「ん…ウツさん…っ」
「ヒロ、俺から離れるなよ」
一瞬だけ離れたキスの合間に、隆が囁いた。
「…あ…ウツさん…っ」
抵抗することもないヒロを押さえつけるように、強く指を絡める。
「や、だ…」
優しく、いつもペースを考えてくれる隆の初めての激しさにヒロは戸惑う。
それでも。
「嫌、じゃないでしょ?」
そんな意地悪な言葉も、否定することはできない。
やめて欲しいなんて思ってない。
「もっと感じて。俺だけ見て」
「ん…もっと、ウツさん…っ」
***
「平気?ヒロ」
ベッドに倒れ込んで、浅い呼吸をくり返すヒロの髪を優しく撫でる。
「ごめん…ちょっと無理しすぎた」
ヒロは潤んだ瞳で愛しそうに隆を見上げて首を振る。
苦しそうだった呼吸が徐々に落ち着いてきた。
「眠っていいよ。ずっとこうしてるから」
隆が手を握ると、ヒロは安心したように目を閉じた。
忙しい毎日の中、こうして一緒にいられる時間は多くない。
だからこそお互いの体温を感じていたいと思う。
愛しい温もりを。
夢じゃない、その温度を。
End.