CRAZY GONNA CRAZY
共演者…という大先輩の方々への挨拶を一通り終えて、楽屋に戻って床にへたり込んだ。
そんなオレを余所に大ちゃんはバタバタと忙しそうにまた出ていってしまう。
こんな状況でも臆することのない大ちゃんが、あの日と同じように凄く遠く感じた。
憧れの人達と同じステージに立っていた大ちゃん。
今はその隣に自分がいるなんて未だに夢を見ているような気がする。
そして今日はそのステージにまた憧れのあの人が…。
「ヒロ」
「うわぁっはい!?」
いきなり名前を呼ばれて慌てて立ち上がって、傍にあったワゴンを倒してメイク道具が散らばる。
「あぁっ!!」
「何やってんの…」
ウツさんが傍に来て、散乱した物を拾おうとしたオレの手を握った。
「…ウツさん…っ」
「手、冷たいね。緊張してるの?」
「ちょ…離してください…」
「なんで?嫌なの?」
そんなことを訊いてくるくせにウツさんの笑顔は、きっとオレが嫌だなんて思ってないのをわかりきってる余裕の表情。
「……ドキドキして。今からヤバい、です」
「ん?どのくらい?」
「え…あ…っ!」
言いながらウツさんがオレのジャケットの中に手を入れてきて、思わず変な声が出た。
「ホントだ。凄いドキドキしてる」
「ちょ、ちょっと!マズいですよ!!」
逃れようとしたら背中から抱きしめられて、余計に心臓が跳ね上がる。
「大丈夫。大ちゃんサウンドチェックで忙しいから当分戻ってこないよ」
そんなこと言ってもいつ誰が入ってくるかわからないこんな状況で……そう思っても抗うことなんてできない。
素直にその腕に身を任せる。
ずっと憧れてたその人が、今は特別な存在。
この人にとってもオレはそういられてるのだろうか。
だけどこの温もりが、夢なんかじゃなく現実だと教えてくれる。
「少しは落ち着いた?」
「……はい」
「大丈夫だよ。ヒロならできるからね」
広いステージで、大好きな人達との共演。
夢見ていた世界でも間違いなく現実だと思える。
ウツさんと、一緒なら。
一緒だから…余計に緊張するんだけど。
それでも肩を並べられる存在にいつかなれるように走り続けたいから。
ずっと、手をつないでいて。
End.