Flame
タクシーの中からずっと黙ったまま。
お邪魔しますも言わずに上がり込んで、部屋の主より先にソファに座る。
「まだ怒ってんの?」
そんなオレに声をかけるウツさんは、困った様子もなく笑顔。
答えずに顔を背けた。
「だってみんなが聴きたいって言ってたし。喜んでくれたんだからいいじゃん」
ウツさんに誘われたカラオケで、ウツさんの友達の前であの曲を歌わされた。
みんなが聴きたがってたとか、絶対ウソだ。
率先して曲入れてたくせに。
「ヒロ」
隣に来たウツさんに、いきなり後ろから抱きしめられた。
「機嫌直してよ。ね?」
ギュッと力を込められて、耳元で囁かれるその声に体温が上がったのが自分でもわかった。
「あ…っ」
強引に振り向かされ口唇を奪われる。
抵抗する前に舌が入り込んできて、痺れるような甘さにただ力が抜けていった。
「や…もぅ…っ」
息をするのもままならないくらいの深いキスに、情けないけど泣きそうになりながらなんとか押し戻す。
「も…っウツさん、ズルい…」
「あ、やっと喋ってくれた」
にっこり笑って、変わらず余裕なところが悔しくてウツさんの胸に顔を埋める。
「まだ怒ってる?」
子供を宥めるように優しく背中を撫でられて、もう反論なんてできるわけなくオレは素直に体を預ける。
でもなんとなく悔しくて。
俯いたままもたれかかるオレを抱きしめたまま、ウツさんは無理に顔を上げさせようとはしなかった。