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fragile


「あれ…ヒロ?」

みんなが乾杯をすませたあと、思い思いに話を盛り上がらせている楽屋を出たオレを大ちゃんが呼び止める。

「今日は帰るね。挨拶もさせてもらったし」
「そう…」

大ちゃんは心配そうにオレを見て、少し迷ったあと。

「大丈夫?」

一言だけ、そう言った。

何のこと?とごまかそうかと迷う暇もなく、後ろのドアが開いてウツさんが顔を出す。

「なんだよ、ヒロ帰るの?」

いつもより少し紅い頬は片手に持っているビールのせいじゃない。

ステージを終えたばかりのウツさんはやっぱり見惚れるくらい格好いい。

「すいません。今日はありがとうございました」
「…そっか。また電話するよ」

そう言って笑って、オレの髪をくしゃくしゃと撫でる。
昔からのウツさんの癖だ。

それなのに、オレは未だに慣れることができない。


触れられる度に上がる体温に、ウツさんが気づかなければいいといつも思っている。


***


家に戻って、そのままベッドに倒れ込んだ。


何をやっているんだろう、オレは。

何年かぶりにTMのライブを見て。
今日は何故か昔のことばかり思い出した。

大ちゃんと並んで見たステージ。
オレがまだaccessでしかなかったあの頃。

ウツさんとのこと、それを思い出したこと、大ちゃんもきっと気づいてる。


たった一度の“過ち”。



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