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 僕等バラ色の日々-2

そうね、よくある話だわ
運命の人って昔どこかで出会っているの
大人になってはじめて知って恋をする

なんなのその後付みたいな恋

そんな風に出会うのならば
出会わなくていい



だって王子様は必ず迎えに来てくれるから




バラ色の日々




(うっわ...最悪....)

眠気最強の昼下がり、タイミング悪くかったるい会議に私は出席していた。毎週ローテーションで回ってくる報告会。私は先々週に済ませたから、超余裕。
ただ今日は大問題がひとつ、机に並べられた資料を見て思わず冷や汗が流れた。

本日の発表者は、原田左之助。
土方さん含めて私の同期の一人。こちらも土方さんの背中を追って、出世街道直進中。ただ土方さんと違って、下半身の方もかなりイケメンらしい。女好きなのが、たまに傷。おそらく宿命だろう。
そして、先日別れた、私の元カレ、だ。

今の私はただでさえ機嫌が悪い。
数日前の夜、突如「付き合う」ことになった土方さんに連れ回され、大人のデートってやつを否応なしに堪能させられた。それに加えて、食事中は左之助くん(付き合ってた頃はそう呼んでた、不覚。)とのことを根掘り葉掘り聞かれて、食事は最悪。おまけに女性誌の連載官能小説に書いてあるようなことばっかりすんだな、あの男は。
つまらないプレゼンが始まったので、私は頬杖ついて、昨夜のことを思い出し、とにかくやり過ごすことにした。




「それで、原田とはなんで別れた。」

土方さんは、フォークとナイフをテーブルマナー通りに置いた。牛フィレ肉の赤ワイン煮込み、案外シャレオツなものを食べるんだと感心した。というか、土方さんの食事風景を初めて見た気がする。こんなイケメンも動物なんだな...と心の片隅で思った、その瞬間視聴率23.7%。

「これでもお付き合いを初めて初日ですよ、いきなりそんなこと聞きますか?」

「じゃあ他に話題振ってくれ。黙ってちゃ、飯がまずいだろ。」

「.....わかりました、浮気です。浮気。」

この人と世間話をしたところで、何にも面白くないので仕方なく左之助くんとのいきさつを話すことにした。
土方さんはただ黙々と食事と続けながら、相槌を打ってくれている。

左之助くんとは、いつの間にか付き合っていた。土方さんと比べて一緒に仕事をする機会が多かったから、妙な連帯感があったのだと思う。お酒の趣味が合うのは重要だということを教えてくれたのも、左之助くん。一緒に飲んで、そのままホテルでワンナイトカーニバル。後味悪くて、付き合い始めた。
でも、まぁそれなりにお互い本気になって。あの夜のことは抜きにして、恋人になった。些細なきっかけだったから、そんなに続かないかな、なんて思っていたけど。割といい具合に続いていったと思う。私もそれなりに楽しかった、そう盛り上がっているうちは。

どのカップルにも訪れる、倦怠期。
付き合い始めて半年後にやってきたそれは、左之助くんの女好きにスイッチをつけたのだ。

とある会社帰り。
この日は用があるからって、一人で帰ろうとしたとき。目に入ったのは、健気な可愛い女の子と、左之助くんだった。仲睦まじく、腕なんて組んじゃって。私が気づかないとでも、思ったのか。ここ、会社の目の前だぞ、このチャラ男左之助。
ここから先は友達の目撃証言だけど、私は二人の目の前に飛び出して仁王立ちをし、左之助くんの頬をぶん殴ったらしい。その時左之助くんは、この世の終わりみたいな表情をしていた、という。そりゃそうだろう、というかむしろそれは私だ。
割と本気になっていた彼氏が目の前で他の得体の知れない女の子とイチャコラしているなんて、見てられない。殴ったのは正当防衛だろう。
覚えているのは、それが会社の受付嬢の子だったってこと。典型的な「かわいい」女の子で、ついつい守りたくなっちゃうようなタイプ。名前は雪村千鶴ちゃん。私はどちらかというと美人で通ってきたから、ちょっと違う風にちやほやされてきた。正直言って、ちょっと羨ましい。だから余計に、頭にきた。

「....千鶴ちゃんの方が可愛いってタイプだし、左之助くんが惹かれちゃうのも仕方ないかな、って思うんですけどね。」

「ヨリ戻そうって、話にはなんなかったのか。」

「どうかな...話し合ってもよかったんだけど、一気に疲れちゃって。そのまま一方的に別れてきちゃった。」

お付き合い、というのは結婚と違って法的拘束力はない。よって自由だけど、だからこそ能動性が求められると思う。浮気したってことは、少しでも他が気になったってこと。そんな中途半端な気持ちで、お付き合いはするべきではない。というか、しなくていい。お互い好き合っているからこそ付き合うのであって、そうでなければ労力使ってヨリ戻してまで一緒にいる必要はない。少なくとも私はそう思う。どちらかに魔が差した時点で、二人の関係というのは終わっているのだ。

「原田もお前差し置いて浮気だなんて、立派になったな。」

「それ、どういう意味?」

「お前みたいな美人と、雪村みてぇな可愛いのを天秤にかけるってすげぇってことだよ。」



(......吐き気がする。)

土方さんの妙なお世辞を思い出して、現実に引き戻された。
辺りを見渡せば、すでにプレゼンは終ったようだった。どんな議論がされたかも、聞いていない。というか、内容すらまったく聞いていなかった。やばい、やっちゃった。

左之助くんは淡々と片付けをしている。プロジェクターをしまって、休みの人の分の資料を回収する。
...果たして千鶴ちゃんとは、うまくやっているのだろうか。彼女は私とタイプが違うから無いものねだりしちゃうのも、わからなくもないけれど。それでもやっぱり左之助くんのテリトリーの広さには脱帽する。
あの時、話し合おうってなっていたら。今の私たちはどうなっていたのだろう。お詫びに旅行に連れて行ってくれた?それとも更に凄惨な修羅場になっていた?
きれいさっぱり別れてしまった今、それは知らないけれど、もう少し左之助くんとの一緒にいたかったのも事実。けっこう惚れていたみたいだ、と思い知らされる。
なんやかんやで土方さんと付き合うフリをすることになったのも、さびしい心を埋めたい、なんて潜在意識があったのかもしれない。

「....さとう。」

ぼんやりと座り込んでいたら、すっかり会議室には私と左之助くんしか取り残されていなかった。やばい、気まずい。しかも声かけられた。面と向かって話すの、あの時以来だ。

「....あ、お疲れ様。」

「おう、相変わらず厳しい質問してくるぜ...。」

左之助くんは抱えていた荷物をいったん机の上に置いた。それから私の隣に、立つ。ただでさえ背が高いのに、座っている状態から見上げる左之助くんは、さらに大きい。けれどこのアングル、なかなか眼福ものだ。

「例の案件、通しておいたから。」

「えっ、ほんと!?無理だと思っていたけど、助かった...。」

そういえば忘れていた、左之助くんに仕事でお願いごとをしていたんだった。ちょっと無理そうな話だったから、左之助くんの力を借りようと「別れる前に」お願いしていた。あれほど無理だと思っていたけれど、まさか既に通したなんて。一体どんな手を使ったのか、原田左之助。きっとあなたなら、土方二世になれる。

「本当は彼女のお前に、報告したかったんだけど、仕方ねぇな。この件は、土方さんへの手土産ってことで。」

「...何が言いたいの。」

意味深な笑みを浮かべて、こちらを見てくる。にくたらしい、もう一度殴ってやろうか。

「お前、土方さんと付き合い始めただろ。」

やっぱりこの男、鼻がいい。
さっそくもう嗅ぎつけている。

「浮気されてやけくそになった割には、いい男捕まえてんじゃねーか。俺なんかよりも、お似合いだぜ、ずっとな。」

「あなたに何が言えるっていうの...。」

この期に及んで、「左之助くん」とは呼べなかった。実際むこうだって、名字で呼んできたわけだし。ああもう、私たち完全に終わってる。ついこの間まで恋人だったとは思えない会話。

だけど、それでも。
ちょっと未練がある、なんて言ったら左之助くんはどう思うだろうか。いや、未練なんてない。そう信じているけれど。経験豊富な彼なら笑い飛ばしてくれないかな、なんて思ったり、私の希望だったり。

「さすが、美人は違うぜ。」

そう言い残して立ち去った左之助くんが、私の心を見事なまでに逆撫でしてくれた。



















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