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 僕等バラ色の日々-4

初めて塔の外に出たプリンセスは
外の世界を知って
そして秘密を知った

私は生きる
貴方に一生抵抗し続けながら


僕等バラの日々


(うそでしょ....!)

なんでこんなことになったのか、まったく理解できていなかった。急転直下した事態に、頭が状況を処理しきれていない。ただ今の私にできることっていったら、この事態の張本人を探すことしかなかった。

その張本人とは、左之助くん。

彼がいそうな場所をひとつひとつ探していていく。いない。手元にある手紙を握りしめて、思わず壁を叩いた。

なんで、大切な時にいつも左之助くんは。



前略 さとうありす様

突然のお手紙にて失礼します。
今更あなた様にお手紙などとお思いになるのは重々承知しておりますが、どうしてもお伝えしたいことがあり、お手紙出させていただきました。
お付き合いしていた原田さんを奪った女からの手紙など読みたくもないでしょうけど、どうか最後までお付き合いください。これから申し上げることは、決して言い訳でなく、単なる私の罪滅ぼしです。そして原田さんとあなた様への謝罪です。



帰りがけ、私のデスクの上に置かれた一通の手紙。
どうせラブレターの類かなにか(だから決して自慢ではなく日常茶飯事なことだったから)だと思った。土方さんとのうわさが広まってすっかり外野も落ち着いた頃だったけれど、こればかりは仕方ない。一応土方さんの彼女になっている私にラブレターなんて、言い換えれば土方さんへの挑戦状みたいなもんだ。ずいぶんと命知らずなやつもいるんだな、と感心しつつ、差出人を確認した。

そして目を疑った。



風の噂で、あなた様が土方さんとお付き合いをはじめたとお聞きしました。
おそらく原因は、私だと思います。あの日、あなた様に原田さんと腕を組んでいるところを目撃され、お二人の仲を引き裂いてしまいました。
今頃になって言うのも遅いかもしれませんが、大変申し訳ないことをしてしまったと思ってします。



そこにあった名前は、「雪村千鶴」。
忘れたくても忘れられない、女の子。全ての終わり、そしてすべての始まりになった女の子。
シンプルな封筒に入れられた手紙をだすと、そこには数枚に及ぶ便箋に文字がしきつめられていた。



実はあの時、私と原田さんは正式にお付き合いをしていませんでした。原田さんには、お付き合いをしているフリをしてほしい、と私の方から頼んだのです。

そうなった経緯をご説明します。以前、あなた様が原田さんに任せた案件を覚えていますでしょうか。実はあの案件に、私の父が少なからず絡んでいました。それを知った原田ささんは、私に力を貸してほしいと相談して来たのです。
私が父に一言添えれば済むことでした。しかし当時の私は、原田さんにある条件を提示したのです。

それは、フリでもいいから、私を彼女にしてほしいと。

もちろん原田さんははじめ、断りました。けれどそれなら力は貸せない、そう私が言ったのです。それを聞いた原田さんは渋々了承してくれました。もちろんそれで私は、あなた様のプロジェクトが円滑に進むように、と父に依頼をしました。
原田さんはその後、私を本当の彼女のように扱ってくれました。ただし会社外限定で、でした。あの時の私はおかしかったんです。それが悔しくて仕方なくて、ついに会社の中でもそういう関係を演じてほしいと迫りました。ギブアンドテイクなはずなのに、必要以上に貸しがあるように言って、原田さんから拒否権を奪ってしまったのです。



.....知らなかった。
あの無理難題だと思っていた案件を左之助くんがいとも簡単に通してくれたのは、こういうカラクリがあったのか。
違う、そうじゃない。つまり私は左之助くんに関して盛大に誤解をしていたということになる。いや、誤解しても仕方ない、と思うけど。だって左之助くんは何も言わなかったし、周囲からそんな話も聞かなかった。左之助くんはあの時、この真実を言わなかったのか。ずっと押し黙って、私のビンタを食らったのか。そしてなぜそんなことをしてまで、左之助くんは私のためにあの案件を通してくれたのか。



そしてあの日、原田さんと私が社内で腕を組んでいるところを、あなた様に目撃されてしまったのです。

その時のことを、私は今でも鮮明に覚えています。
あなた様から原田さんを奪った優越感、それと同時にあなた様の背中をずっと見続ける原田さんへの憎しみ、何よりあなた様への嫉妬。
なぜ私がお付き合いするフリを条件に持ち出したかは、当時わかりませんでした。原田さんに相談をもちかけられ、知らないうちに口からでていました。けれどもその時分かったのです、私は原田さんが好きだったのだと。あなた様のために原田さんが一生懸命になる姿を見て、私は悔しかったのだと。


思わずちょっとだけ彼女に同情してしまった。
多分私が逆の立場だったら、同じ感情を持ったと思ったから。
というより、すべての元凶は私じゃない。



そんなある時、あなた様が土方さんとお付き合いされたと聞いて、初めて我に返りました。私は何てことをしてしまったのだと、結局原田さんから大事なものを奪ってしまったのだと気付いた時、それはもう遅かったのです。
原田さんとの関係は今でも続いています。原田さんはあなた様と別れてから、幾分私に優しく接してくれるようになりました。でもそれは本心ではないのだと思います。

そう、原田さんは今でもあなた様のことが好きなのです。そして私は、諦めなのです。

本当に今になって、と自分でも呆れるばかりです。どうにかなるとも、許してもらえるとも思っていません。
それでもこの事実を知ってほしかったのです。

最後に、このお手紙をあなた様の机に置いたら、原田さんと「お別れ」しようと思います。読み終わる頃には、多分全て終わっているでしょう。これがせめて私にできることだと思っています。原田さんと復縁してほしいとは言いません。結局私の自己満足かもしれません。

ただ願うは、一瞬でも奪ってしまったあなた様の幸せを取り戻してほしいのです。

本当にごめんなさい。


雪村千鶴


丁寧に締めくくられた、文末を思い出す。
もしかするとこれも何かのトラップかもしれない、だから本人にその真偽を確かめるのが一番だと思った。オレオレ詐欺だって、まず最初に確かめろって言うでしょ?

今でも私のことが好きだなんて、そんな都合のいい話あるわけない。
それより千鶴ちゃんの言う通り、今更すぎる感もある。

「左之助くんっ....。」

気付いた時には、普段立ち入り禁止の屋上にでてきていた。
なんでここに来たかは知らないけど。多分、ここに来いって左之助くんが導いてくれたのだと思う。

ほら、目の前には、缶コーヒー片手に左之助くんが立っていた。
その表情は夕日に照らされてよく見えなかったけど、おそらく千鶴ちゃんとはカタがついたのだろう。

「ありす....」

今度は、私の番だと、直感的に感じ取った。
















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