◎ 祭りの時間 斎藤
幼馴染のはじめくんと、近くの秋祭りに来た。
毎年の恒例行事だから、お互いを異性として意識し始めるようになってからも、変わらず出向いている。
「しかし、あんたもよく食べるな。」
人混みの中をゆっくり歩きながら、はじめくんはさりげなく私を庇ってくれている。
「はじめくんは、何も買わないで楽しめているの?」
抱えきれないくらいの食べ物を頬張りながら、私ははじめくんを見つめた。
「別に食べなくても、祭りは祭りだ。」
お祭りの定番といえば、綿あめ、かき氷、たこやき、焼きイカ、そしてチョコバナナ。これらを制覇しなくては、何をしに来たのだろうか。
そして今は、チョコバナナを制覇中だ。
「……食べて、みない?」
カラフルなチョコレートで彩られたバナナを差し出した。無理矢理、はじめくんに握らす。
仕方ないな、と言わんばかりの表情で、はじめくんはそれを口に運んだ。
「どお?美味しいでしょ?」
「……まあ、うまい、な。」
すぐにそれは私に戻された。
「あんまり、気に入らなかった?」
ぱくり、と一口。その時、私は気付いた。
(あ、間接キス……)
そう思ったのと同時に、はじめくんが呟いた。
「あんたが旨そうに食べていれば、俺はそれでいい。」
二口目のチョコバナナは、すごく甘かった。
prev|
next