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 Love Lone Star

私は知った。どんな暗闇にも、光は灯せるのだと。


幕末の京は、毎晩どこかで戦火が上がる。
10歳の夏に、私はその戦火で両親を失った。

生きていく術は、ありそうでなかった。
最初は存在すら知らなかった親戚に引き取られ、かなり乱暴な扱いを受けた。
耐えかねて逃げ出し知り合った男性にすがって、あっという間に処女を奪われた。
その男と手を切る条件と称して、そいつの借金を背負わされて取り立てが毎日私の元にきた。
その借金取りに私は、遊女として身を売られた。
だから私は今ここで、遊女として生計をたてている。

そんな私の唯一の光が、新選組8番隊の隊長、藤堂平助くんである。

彼との出会いは、数ヶ月前だった。
毎晩店じまいを私がしている時間と、彼の夜の見回りの時間が、何度か重なったことが始まりだった。
はじめはよく見る顔だな、と思ったけれど。そのうちに世間話を楽しむくらいの仲になった。別に恋仲というわけではないのだけれど。

ただ気になるのは、どういう訳か、平助くんは、夜の見回りにしな現れないということだ。
一度だけ、夜の担当なの?と聞いたことがある。
その時の平助くんは、いつもと違う少し暗い顔をして

「夜の見回りしか、出来ないんだ。」

と言った。
多分、触れちゃいけない理由があるんだと思った。




その夜も店じまいをしていると、平助くんが姿を現した。
今晩は、と声をかければ、明るい返事が返ってきた。

「ありす、このあと時間あるか?」

「あるけど……平助くん、見回りは?」

「あっ、俺今日非番だからさ!へーきへーき。」

見回りがないということは、この時間まで私を待っていてくれたということだろうか?なんだか嬉しくて、笑ってしまった。

「ちょ、なんか変なこと言ったか?俺!?」

平助くんが慌てふためく。私は急いで否定した。

「ううん、違うの。平助くん、もしかして私のことを待っててくれたのかなって。」

そしたら平助くんは、顔を真っ赤にして、ちげーよ!たまたまだよ!っていった。まあそんなことは、彼に会えればどうでもいいのだけど。

店じまいを済ませると、平助くんは、近くの河川敷に私を案内した。水のせせらぎが、夏の終わりを彩る。いい風が吹いた。

「今日はよ、お前と、これ。やりたくて。」

すごく荷物が多いな、と感じていたけれど。がさがさと取り出されたのは、

「線香花火………?」

「なんか屯所から出てきたんだ。きっとあん中じゃ、できないから……。」

というか、新選組の皆さんが花火を持っている姿は、ちょっと似合わない。顔は知らないけど、鬼の副長とよばれる土方さんが花火なんて持ったいたら、笑ってしまいそう。

平助くんが、慣れた手付きで火を起こす。ふわっと空気が暖かくなった。
線香花火を一歩手渡されて、せーのって火をつけた。

パチパチ、パチパチパチパチ……

小さく儚い、でもキレイで。
そしたら、あっという間に散っていった。

「俺はさ。」

平助くんが、二本目の線香花火に火をつけながら呟いた。

「訳あって、夜しか動けねぇんだ。」

きっとそれ以上聞いちゃいけないから、うん、とだけ頷いた。

「ありすだって、夜の世界で生活してるだろ。」

確かに遊女は、夜の世界の人間だ。
でもそれ以上に私は、真っ暗な中を歩んできた気がするけど。

「だったら、夜にしかできねーこと、やりたいよな!」

それが、花火なのだろうか。彼はとっても前向きな人だ。
でも同時にすごく無理しているみたいで。なんだか胸が切なくなった。

平助くんは、どんな、真っ暗闇の中を歩いてきたの?

私は、あなたと出会って、少し光がみえたんだよ。

「私もなれないかなぁ……。」

自分でも、無意識のうちだった。
どうして分からないけど、語りかけたくて。頭でもわかっていなかった事が、口からで始めた。

「平助くんの、道を照らせるような、線香花火に。」

多分、あなたの暗過ぎる闇に、私は不十分すぎるけど。せめて、この線香花火くらいになら。このくらいの、小ささでいい。なにか、出来るのならば。

「俺はさ、ありすほど、お先真っ暗じゃないからよ。」

ふと顔をあげると、平助がやんわり微笑んでいた。

「ありすがいたら、眩しすぎるかもしんねーな。」

パチパチ…
何本目かの線香花火がまた散った。

「なら俺はさ、ありすのこと、ちゃんと照らせてるか?」

それはもう。

「もちろんだよ………!」

今更気付いた。ああこれが、恋なんだって。





最後の一本に、手を伸ばす。
その時、平助くんと伸ばした手が重なった。どうやら、奇数本しかなかったらしい。

「あっ悪りぃ。にあげるよ。」

「そんな!平助くんが、やっていいよ。見てるからさ!」

お互い遠慮しあってたら、目が合った。

「………二人で、持とうよ。」

手が触れ合うのが、少し恥ずかしかったけれど。二人で持った線香花火は、心無しか、さっきのより強く輝いていた。

「………ありす、俺がいつかお前を迎えにいくって言ったら、待っててくれるか?」

あともう少しで、灯りが消える。そんな時に、平助くんは言った。

それは、つまり。いつか私を………

「待っていても、いいかな………?」

だってね、平助くん。
あなたは前に進むべき人だから。

「……ああ、待ってろよ。」

小さな丸い火花が、ぽとりと落ちた。








それから間もなく、新選組の動向がよくない話を聞くようになった。
その中に平助くんが混ざっているのかどうか分からなかったけど。


あの晩以来、彼はめっきり姿を見せなくなった。


(それでも、私は今でも、あなたの光になれていますか。)






もうすぐ、京に雪が降る。




end



























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