◎ 世界はまわると言うけれど
午後の西陽が差す、総司くんの部屋。
私は買ってきたばかりの漫画本を読んで、総司くんは好きなRPGのゲームに熱中していて。
特にすることも、何もない日曜日。
「総司くん、お腹すいた。」
「んーピザでも頼む?そのへんにクーポンあったよ。」
物が散乱した机の上を少し動かすと、私の家にも入れられていた宅配ピザ屋さんのチラシを見つけた。下の方に、サイドメニューが1品おまけでついてくるという、クーポン付きだ。
「総司くん、このクーポン2000円以上じゃないと使えないってよ?」
「ピザ2枚くらい頼んだらいくでしょ?」
「そんな食べたら持ってきたプリン食べれないよ。」
甘いものがあまり好きではない総司くんだけど、あのお店のプリンは好きみたい。
だから一人暮らしの総司くん家にお邪魔するときは、こうして差し入れとして持ってくる。
総司くんが一人暮らしで良かったと思う。
まだお互い学生の身分で、同棲なんてできないから。だけど特に何もしなくても一緒にいたいと思ったとき、ふらっと総司くん家に行けばいいから。
食べ物の話題は、それっきり途切れた。
部屋にはページをめくる音と、ゲームのコントローラーの電子音が響く。
確かに総司くんという彼氏ができてから、いわゆるデートスポットにいくっていうことにも憧れたけど。やっぱり普通が一番かな、なんて行き着いてしまう。
「ねぇ、総司くん。」
「ん、何?」
でもそれは、本当にそうなのかな。
「明日世界が滅亡するとしたら、総司くんはどうしたい?」
この前の西洋史の講義で聞いた、「世界の滅亡」。
仮にそれが明日だったらとしたら、私たちは何を選ぶだろうか。
「どうしたの?なんか悩み事?」
「いや、特に意味はないんだけど。ただ、そういう時でもこうしているのかなっ、て。」
残された時間を悔いなく過ごせた、そう来世で思うためには私たちは何をしたいのだろうか。
「それって、死ぬ直前まで僕は君といるってこと?」
「あ、そこから考えちゃうレベル?」
確かに、誰と一緒にそのときを迎えるかから選択肢はたくさんある。
まだ私たちは結婚していないからもちろん家族ではない(そういう約束もしていないし)。そういえば赤の他人、という括りなのか。
「うーんそうだなぁ。」
総司くんはやっていたゲームを止め、私の横に腰掛けた。
小さな座椅子、総司くんは青で私が色違いのピンクを使っている。これは私が総司くんの家に出入りするようになってから、お揃いで揃えたものだ。
「特に思いつかないから、こんな感じでいいかな。」
一瞬、私は落ち込んだ。
だってすごい妥協されているみたいだったから。
「ふーん、特に私としたいとか、やり残したこととか、無いんだ。」
読みかけの漫画を再び開いた。
ちょうど主人公が世界滅亡を防ぐために命を捨てるシーンだった。
「あれ、そういう風に捉えちゃうの?もっと喜ぶかと思ったけど……。」
「え、だってそういうことじゃないの?」
総司くんは、私から漫画を取り上げた。あまりにもその力が強かったから、バランスを崩しそうになる。
というか、崩した。
「こういう時間が最高なんだよ、ってことだよ。」
ぐうたらして、じゃれあって。
どうでもいいことでケンカして、いつの間にか仲直りする。
特別はいらない。
「………あ、ピザ、Lサイズなら2056円だよ。」
転んだはずみで、さっきまで見ていたチラシが頭上からひらひらと舞い落ちてきた。
「じゃあ、クーポン使おうよ。」
「ここはやっぱ、ポテトだよね。」
食べたいやつに大きな丸印をつけたら、私は受話器をとった。
世界はまわると言うけれど
(このままで、いよう。)
end
prev|next