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 live-when you are near!-

liveのお話の続きです。
設定を引き継いでいるので、まずはそちらをご覧ください。




総司くんの具合がよくなったら色んなところ行こうね


しばらくの闘病生活を終え、総司くんがようやく退院した。
思ったより入院生活は穏やかで、それだけが救いだった。
まだ定期的な検査の為に病院には行く必要があるけれど、これでひとまず完治したと思っていいみたい。
もちろんご両親に付き添われて退院したから、私の出る幕なんてなかったけど。今家についたよ、って一番に電話をくれて、その日は一日中幸せだった。

総司くんが日常生活に戻って、体力的にも慣れてきたころ、少し遠出をしようと誘ってくれた。
これまでももちろんデートしていたのだけど、食事を一緒にしたり映画を見たりで、物足りない部分があったのも事実。二人で相談した結果、ここから電車とバスを使って1時間ちょっとで行ける海を見に行くことにした。

「わーっ!海だ!ダイオウイカに会えるかな!?」

電車に揺られて、都会の景色を抜けると窓一面に、海がみえた。季節は秋だというのに、今日は日差しが強かった。水面で反射した光がきらきらと、輝きを放つ。頭上には飛行機雲。
近年の異常気象にのっかって、ダイオウイカの出現に期待を膨らます。総司くんは、最高に蔑んだ目線。あれ、変なこと言ったかな、私。

時刻は午後になっていた。海までの道のりにあった海鮮のお店で昼食をとり、近くの大きな公園でお散歩。
シャボン玉で遊びながら、気持ちのよい秋の風を感じた。



この前まで狂おしく望んでいた時間が、今流れている。

総司くんが病気になってから、私は幾度となく生について考えた。
生きるってなんだろう。生きるってどういうこと?




お日様が西に傾き始めた頃、ようやく海岸に辿り着いた。
季節は秋だし、夕方という時刻もあってか、人影はまったくない。
私たちのプライベートビーチだ。

「総司くん!こっち!」

繋いでいた手を私から離し、駆け出した。
体力も戻って走れるようになった総司くん。せっかくだから、砂浜をかけっこしよう、そう思った。

総司くんも楽しそうに追いかけてくれる。わざと追いつかないように、ゆっくり走ってくれたりして、あっという間に端から端まで走ってしまった。

サンダルを脱ぎ捨て、裸足になる。
ほんの少し白波をたてる、波打ち際に足をいれた。まだ夏の暖かさが残っていた。

「ありすちゃん!転んじゃうよ。…ほら、待って!」

総司くんもスニーカーと靴したを、放り投げる。ざぷん、と音を立てて海に足をいれた。

総司くん、生きてるんだ。
もう私と一緒にいれるんだ。

そう思ったらなんだかすごく嬉しくて。涙が零れそうになるのを堪えていたら、走れなくなってしまった。

「……ありすちゃん?おいで?」

私の異変に気付いた総司くんが、優しく呼んでくれた。
彼のその声で私の名前を紡いでくれることが、こんなにも幸せなんて。
どうしたらいいの、私。

ゆっくりと背後から腕をまわされる。
私の前で組まれた彼の腕は、まだ細々としている。幾分か痩せたのもかんじる。

だけど、確実に総司くんは、ここにいる。

「ちゃんと、総司くん、生きているんだね。」

総司くんは、何も返事をしなかった。だけど、私を抱きしめる力がちょっぴり強くなったのがわかった。

「生きてるって、こういうことなんだね。」

心臓が当たり前に動くことじゃなくて、誰か大切な人の温かみに触れること。生は自分で感じるだけでなく、誰かに与えてもらうこと、だ。

「私、どうしようかと思った。このまま置いていかれちゃったら、どうしようかって。」

とたんに、彼の顔がみたくなった。
いつもみたいな、優しく顔をみせてほしかった。

彼の腕をほどかないように、振り返る。その時小さな波が押し寄せてきて。

私たちは海で尻もちついていた。

「きゃっ、やだっ、総司くんごめんなさ……」

総司くんは私の顎をひょいと持ち上げると、強引に唇を重ねた。
頬に手を添えて、時折角度を変えながら。彼の体温がちょうどいい。

「不安だったのは、僕の方だよ。手紙ではあんなこと書いたけど、君はまだ手放したくない。」

唇が離れると、目があった。ふふっ、と笑うと、今更服がびしょびしょなことに気が付いた。

「だけど、生きていれば君に会えると信じてた。それが、どんな形でもね。」

「私はまだまだ、総司くんと、居たいよ?」

分かってる、そう言ってまた口付けされた。夕陽がもう少しで沈みそう。


「今夜は……このまま泊っていこうよ、ありすちゃん。」

服も濡れちゃったしね、と総司くんは言った。だけどそんなの、理由にしかならなくて。本当はただもっと一緒にいたかっただけ、それは私も同じだった。

「うん、泊りたい!それでね、総司くんとたくさんお喋りするの!」

「いいよ、だから僕のしたい事にも付き合ってね。」

にんまりと笑う総司くん。総司くんの夜にしたい事、それを想像したら恥ずかしくなってきた。

だけど、それもしたいのも事実。
とにかく、彼が手に届く所にいる、それが大事だった。

「これからは一緒にいれるんだね!」

君とどこまでも。
次の夏へいこう。



live-when you are near!-
(季節はやがてめぐるから)




end








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