◎ 春待つ花のように 斎藤
「はっ……はじめ、くんっ…?!」
「お前っ…何故ここに…?!」
今日から新しい大学生活がはじまる。暖かい日差しが降り注ぐ広いキャンパス。大きな桜の木の下で偶然再会したのは、小学校の時の同級生、はじめくんだった。
小学校を卒業したら、お互い別々の学校に進んでしまって、いつの間にか記憶の人になっていたのだ。
クラスに馴染めなかった内気な私と、読書が好きなはじめくん。休み時間にはクラスに二人残っていた。それから自然と距離が縮まって。
そんなはじめくんは、私の初恋の人になった。
「大学、ここだったんだね。…学部は?」
「文学部、だが…あんたは。」
昔から本が好きな、はじめくんらしい進路。すごく納得。だけどね、はじめくん。
「私も、文学部なんだよ。」
あの時、二人きりの教室で、本に向けるはじめくんの眼差しがすごくキレイに見えた。
何にも知らなかったんだけど、私もこうなれたらいいなって思って。
そしていつか、あの頃の私が見たような眼差しを、誰かに伝えられたらいいなって。
「そうか、意外…だな。それならば今日から学友として、よろしく頼む。」
「こちらこそ。まだまだ、はじめくんから教わりたいことがあるの。」
ふわりと春の風が、桜の花を小さく揺らした。まだ咲いたばかりの花たちは、懸命に散らないよう耐えている。
「…それは、どういう意味だ?」
「…内緒。」
私はそんな春の風に背中を押され、人でごった返すキャンパスへと踏み出した。
Fin.
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