◎ Mr.Holiday(続編)
「んー、おはよう。」
ごろんと一回転すれば、愛おしい大きな背中にぶつかった。
まだ眠い垂れ下がる瞼をこすって、霞んだ視界の先には、左之助くん。
同じお布団を共有できる、なんてささやかな幸せなんだろう。
「おー、おはようさん。よく眠れたか?」
「うんっ、左之助くんのすぐ横で寝れたし、ばっちり回復したよ!」
あんなに昨日疲れていたのに、目覚めは最高。きっとそれは、左之助くんのおかげ。
素直にそう伝えれば、左之助くんの暖かい手が、頬を撫でた。
「そうか、それならよかった。」
今日は祝日。
前日山のような仕事を片付けて、そのまま流れ込むように左之助くんのお家に来た。会社まで車で迎えにきてくれて、用意してくれたいい香りのするお風呂に入って。ふかふかのお布団にダイブすれば、あっという間にねむりに落ちた。
正直言って、左之助くんには悪いことをしたと思う。昨日あんなに準備してくれていたのは、やっぱりそういう展開を期待していたのだと思う。明日はお休みだからって、ゆっくりご飯を食べて、エッチして。私だってそんな天然じゃないから、それくらい分かってる。左之助くんだって男の人だもの、そうい欲求があるのは当然。
だけど私の好きなようにさせてくれた。私を気遣って、寝かせてくれた。本当に、優しい人。
「昨晩は…ごめんね?私、すぐ寝ちゃったでしょ?」
「まぁな、気づいたらもう寝息立ててたしな。」
それでも左之助くんの表情は笑っていて。まるで全てを許容してくれているようにも見えた。
「せっかくゆっくりできる夜だったのにね、ほんと…ごめん。」
「いいって、だから気にすんな。それにいいものも見れたしな。」
「えっ、なに……?」
そう言った時の左之助くんはやけに笑っていたから、思わずその理由を尋ねてしまった。
「ありすさ、寝ながら俺の名前呼んでたんだぜ。すげー可愛かった。」
だから、許してやるよって頬に重ねられた唇。起きたばっかりの独特な匂いが、少しだけした。
「なあま、どんな夢みてたんだ?」
「うーん…覚えてない、えへへっ。」
今度は後ろから抱き締めてくれて。心地良い声が、すぐ耳元で聞こえた。その声で呼んでくれる私の名前は、なんだか特別に聞こえるの。
「…何にも考えずに、こうやって朝からするのも…いいな。」
さらさらと左之助くんの指が、私の髪を解していく。昨日使ったシャンプーのいい香りが、鼻をくすぐった。
「何にも考えずに、って?」
本当はわかってるけど、ちょっとだけ意地悪。左之助くんの口から、色んなこと聞きたいから。
「分かってるだろ?言わせんなよ…。」
「ちゃんと言わないと分からないよ?」
言葉に出して、左之助くんの思ってることたくさん聞かせて。心が通じ合っていても、その声で紡がれたものは、また違うから。
「ったく…。下心なしでって、ことだよ。ただ単純に、ありすに触れてるだけで幸せだってことだな。」
「それ、今更気付いた?」
左之助くんは慌ててフォローしていたけど、私はわからないフリをしていた。毎度返ってくる左之助くんの反応が楽しくて、つい面白がって意地悪したくなる。
左之助くんはこう見えてもとっても感情豊かな人だから、そういうところも、ずっと一緒にいて飽きないところだと思う。
「頼むよ、分かってくれって…。」
「ごめんごめん、ちゃんと分かってるよ。」
本当に大好きな人って、きっと触れてるだけで、違う、傍にいてくれるだけで。そうじゃない、通じ合っているんだって思うだけで幸せな気持ちになれるんだと思う。そんな大切なことを教えてくれたのも、左之助くんが初めて。きっとたくさん大切なこと、知らない間にもらってる。
「……ねぇ。」
「なんだ?」
辛いことも、左之助くんがいるって思えば乗り越えられそうなの。どうしてかな、左之助くんのこと考えるだけで、自然と頑張れるの。こうやって甘やかしてくれるから?そうじゃない、きっと理由は別のところにあるはず。
「……好きだよ。」
こぼれた「好き」という二文字は、紛れも無い私の本心。伝えたくても、ここには乗り切らないくらいの想いが詰まってるの。どうしたら全部伝えられるかな。
「あぁ…俺も、好きだ。」
この一言をもらえるだけで、カラカラの大地に水が沁み渡っていくようなの。本当に、左之助くんは私のオアシス。できることなら、左之助にとっても私が、そうでありますように。
「そういな今日、休みだけどどうする?」
今頃そんなこと聞いたって、時計はもう午前10時をさしていて。したかった事や行きたかった場所、あったはずなのに何故か思い出せなかった。
「このままで、いいんじゃないかな?」
何もないけど、貴方がいる。
私のホリデーはそれで充分。
fin.
アイデア提供:みや様
ありがとうございました!
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