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In die hohle hand Verlangen

掌なら.........



何か私は前世で悪いことでもしたのだろうか。
そう聞かれたら、答えはNo。
むしろ「された側」なのに、神様は私にとんでもないことしてくれた。

私には、前世の記憶がはっきりと
残っている。
時は幕末にかけて。その時私には、恋人がいた。

その人の名は、土方歳三。
泣く子も黙る、新選組の鬼副長。

そして私を、置き去りにしていった人。

京で出会った私たちは、一瞬にして燃え上がるような恋に落ちた。
新選組の中でも、公認の仲だった。
それはもうずっと貴方の部屋に入り浸って、適当に屯所内の雑用をこなしたら、夜はただお互いの体を貪り合ったのよね。

血にまみれた貴方を迷うことなく抱きしめることができた。
戦いに身を投じる貴方が好きだった。

ずっと貴方のそばに居れると思ってた。

だけどそれは、ただの私の勘違いだったみたい。
新選組が京から江戸に移動したあと、私はあっけなく彼に置いてかれた。

最後の言葉は忘れないわ。
「先に行っていてくれ。野暮用を済ませてから行く。」と、貴方は言ったわよね。

貴方がもう私の近くにいない、そう知ったのは置いて行かれたその晩だった。
そうよ、必死に走ったわ。貴方に追いつきたくて、暗い森の中をとにかく走ったわ。

でも私、すごく彼に忠実だったから。
貴方の最後の言葉通り、「先に行った」の。

貴方の後ろ姿に追いついた、そう思ったとたんだった。
足を踏み外して、崖から転落。そのまま焼かれるような痛みに苦しみながら、私は死んだの。


そうね、すごく皮肉なものだわ。
今、この21世紀に生まれ変わって、ようやく貴方に追いつけたのだから。





「なんで、かしらね。」

「それはこっちのセリフだ。記憶が残ったまんま現代に生まれ変わったのが、俺だけじゃなくお前もだったなんて、お伽話もいいところだぜ。」

本当に偶然だった。
街中を歩いていたら、見覚えのある姿。それはお互い様だったみたいで、引き合うように人ごみをすり抜け、互の前に姿を現した。

貴方も、私が恋人だったことを覚えているのね。
そしてもちろん、私を一人ぼっちにしたことも覚えている。

「随分と出世したじゃない。教科書にも載ってるし、大河ドラマも絶好調みたいじゃない。」

彼が函館で戦死した、というのは小学生の時に北海道を訪れた時に知った。
そしてその時、前世の記憶がフラッシュバックしたのを今でも覚えている。

「うるせぇ、まったく堪ったもんじゃねえよ。」

「私が一人もがき苦しみながら、知らずにね。」

きっと貴方は知らない。
私があんな風に死んでいったことを。
貴方が私を置き去りにしなければ、ああ死ぬこともなかったはずなのに。

「それは、どういう意味だ。」

「何を今更。私、貴方に江戸に残されたその日に死んだの。貴方に追いつこうとして、必死に山を下っていた、途中にね。」

ああ、やっぱり。すごく驚いているのね。
私ね、あの時はわからなかったけど、今は手に取るように貴方のことが分かるの。

どうして私を一人残したって?
それはただ単に、貴方のエゴよ。

「一緒に逃亡資金もやったはずだ、なんでお前...。」

追いかけようとした、とでも聞くのかしら。

「なんで?それはこっちが聞きたいわ。私が、はいそうですか、って江戸に残ってたとでも思っているの?」

貴方はそうやって、すぐ困った顔をするのね。まるであの時そのまんま。
やがて大きなため息を貴方はついた。
 
俺はお前を戦いに巻き込みたくなかった。女として幸せになってほしかった。
ええ、そうね。そう言うと思ったわ。

だけど私の幸せを、誰が決めたわけ?
私を「女」にしたのは、紛れもなく貴方でしょう?

「あの時の俺は...そうするしか、なかったんだ。」

そんなに私、か弱く見えた?

「でも結局は、私を守る自信がなかっただけなんじゃない?」

今更後悔の表情を見せたって、既に時遅し。
貴方は私を守ることも、幸せにすることもできなかったのだから。

「分かってくれ、俺は片時もお前を忘れる時はなかった。お前を想っていられたから、最後まで戦うことができたんだ....!」

遠い地に残してきた愛した女を思い、その長い戦いを乗り越えることができた。
なんて都合のいい話、所詮私は貴方の記憶の中の人。

守られたかったんじゃない。
どうせ死ぬなら、貴方と一緒がよかっただけ。
一緒じゃなくてもいい、ただ貴方をすぐそばで感じながらで、それでよかった。

「そういうの……重い。」

「なん、だと...?」

ごめんないさいね、その貴方の想い。
伝えてもらうのが遅すぎたみたい。

確かに当時の貴方は正しいことをしたのかもしれない。
男が女を幸せにする時代。貴方がそう思って、あの様にしたのならば、それはそれで正しい。
昔の私もそう思ってた。貴方は何一つ悪くないって。

「こうやってこの時代に生まれ変わって、もう一度貴方のことを考えた。そしたらね、ちょっと考え方が変わったの。結局は、貴方の自己満足だったんじゃないかって。」

「俺は...こうやって生まれ変わっても、お前のことを想っていたのに....。」

「だからそういうのが、自己満足だっていっているの。」

時空を超えた愛?
何百年も想い続けたたった一人の女性?
今更お涙頂戴の再会だとでも思ったの?

「心のどこかで、そんな自分に酔いしれていたんでしょ....!?」

ねぇ、わかって。
自分でも矛盾してるって、理解しているの。
貴方の考え方はエゴだって言ったけど、
私だってエゴの塊でしかないということ。

貴方を責め立てることで、心満たされていく私がいるの。

「……そんなに嫌われていたとは、少々意外だったがな。」

違うの、そうじゃない。

「なら、最後にもう一度だけ聞きたい。」

そうしないと、愛する人に置き去りにされたって事実を受け止めきれないの。


「俺はお前が好きだ。もう一度一緒になってくれるか。」

そして貴方は、すっと私の掌をとった。
まるで許しを請うように。





「……ごめんなさい。それは、できないわ。」




私が貴方を嫌いになったから、一人になってしまったんだって。
そう思わないとやりきれないの。

取られた掌に、そっと貴方の唇が落とされた。
何百年越しに感じた、貴方のその柔らかな唇。今も変わっていないのね。


「....今度こそ、幸せになれよ。」


















懇願
ねぇあなたは何を想う?






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