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 サロメ12

ありすには一つだけ、気になることがあった。
それは、ありすの仲間たちのことであった。

芸妓に粉して新選組の屯所に潜入してから数日で土方の首を取った報告がなかった場合、必ずありすの安否を確認する手筈になっていた。そこで仕事を続けることが可能だと判断されれば続行、そうでなければ連れ戻す。
新選組が居候を許してくれたところで、越えなくてはいけない壁がもう一つあったことをありすは忘れてはいなかった。

しかしそれは、手筈通りに行われていなかった。
最初に新選組に潜入してから数日経っても仲間は現れず、そしてそれは今のところ一回もなかったのだ。
ありすは一瞬だけ、実は密かに自分の正体そして本来の潜入目的が新選組に知られていることを疑った。むしろ仲間は既に殺されていて、自分もいいように使われているのではないか、と。

「こんな女、置いておいても仕方ない…か。」

ありすは大きく溜息をついた。どうやら結論は、仲間と自分の間に手違いがあった、というところに行き着いたようだ。
実際土方の小姓付きとして、かなり機密度ほ高いであろうものも取り扱ってきた。泳がせているだけの敵には、到底見せられないだろう。それになんやかんやで、この状況は助かっている。未だ任務を果たせずにして、挙句の果てに標的に情が移ったと知られてはいけない。土方とも引き離されることはないのだ。

「おいおい、もっと自分に自信もてよ。」

「は、原田さん!?」

突然背後から声をかけられ驚いたありすは、手元の書類をひっくり返した。慌ててそれらを拾い上げる。

「あ、悪かった。あんまり自信なさげに溜息ついてたからよ…。」

開いた土方の部屋の襖から顔を覗かせた原田が、頭上で眉を下げて笑った。

「とんでもありません。私が…あまりお役に立てていないのは事実ですし。」

「んなことねぇよ、食事、洗濯、それに土方さんだって助かってると思うぜ?」

「あ、ありがとう…ございます。」

相変わらず、土方という言葉に反応してしまう自分が少し許せなかった。だけどこの際、とことん彼のために働こうとありすは決めていたのだ。

「土方さんもありすを使いまくってるよな。この書類、俺はよく分からねぇが…どうにかするんだろ?」

「はい、でも細かくご指示頂いていますから。」

ありすがにっこり微笑むと、原田は安心したようにその場を立ち去った。原田の入れ替わるようにして、土方が姿を現す。心なしか、居心地が悪そうな表情だった。

「土方、さん!いらっしゃったのですが…」

「…ありす、俺は、少し頼り過ぎたか?」

「そんなことありません!これで少しでも土方さんのお役に立てるのなら。」

土方はありすの目の前に腰を下ろすと、再び筆を手にとった。

「お茶をお持ちしますね。」

「ああ、熱いやつを頼む。」

「もちろんです。」

土方とは逆にありすは筆を置くと、部屋を後にした。
屯所内をごく一部の幹部以外に気付かれぬように、静かに走る。途中で藤堂や永倉に会い、軽く挨拶を交わした。基本的に新選組の人たちは、いい人だ。初めてできた仕事仲間以外との繋がりに、ありすは少々興奮していた。

台所で湯を沸かし、茶葉を探す。買ったばかりの茶葉の袋を開ければ、いい香りがそれだけで漂った。
土方好みの熱い茶をいれるために、湯呑みをしっかりと温めてから、濃いめにだした茶を注いだ。どうせなら、と自分の分も含めて2つ用意して、お盆にのせる。

鼻歌交じりに、土方の元へ戻ろうとした、その時。
がさっ、と勝手口の方から物音がした。普段滅多に使わない勝手口、平隊士らがいるとも考えにくい。食材を取りに時折幹部が使うこともあるが、今はまだ食事を準備するような時間ではなかった。

「……だ、れ?」

お盆を置いて、音が鳴るほうへ進む。
ぼんやりと人影が見えたような気がした。

「だれか…いるの?」

ありすの声を確認したかのように、その人影が動いた。ありすは一瞬、身を構える。

「ありす、か。」

「その声はっ…」

声の主は直ぐに分かった。
紛れもない、仲間のものだった。

「どうして、今更ここに…?」

ありすの心臓が、不吉な鼓動を打った。
仕事柄、仲間の気配は第六感でおおよそわかる。しかし今日の彼らの気配は、身の危険を知らせるものだった。おそらく味方だと思って私を迎えには来ていない、そう悟るのに時間は要らなかった。

「この感じじゃ…あまりいい雰囲気では、なさそうね。」

ありすの言葉に、彼らは反論しなかった。












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