2015-7-5 Sun 23:24
「土方さん、何投げてほしいですか?」
バッターボックスでバットを構える土方の背後から、沖田が静かに話しかけた。
沖田は静かにミットを構え、ピッチャーである斎藤と目配せする。
「………ストレート。」
土方は吐き捨てるように答えた。その場でバットを素振りする。
「……わかりました。」
沖田は意味あり気に笑うと、斎藤にサインを送る。指でサインをつくり、示したものは。
「はじめくん、スライダーでいくよ。」
この後土方のバットは、盛大に空を切った。
2015-6-11 Thu 23:18
「やっぱり夜の土方さんって、あっちの方も鬼なんですかね。」
昼下がりの薄桜学園。
適度に温度調節された職員室内で茶菓子を摘んだ。
「どうだろうねぇ…ただ昨日、彼の部屋の前を通ったら可愛い声が聞こえたよ。」
大鳥先生は真顔で返答してくれた。彼とは話が合うから好きだ。というか自室でなにやってんだ、あのエロ教師は。
「ちゃんと出すところがあって、土方先生も気持ちいいんでしょうね。気性が荒いのも大分落ち着いてきましたから。」
「そうだね、やっぱり一人ってのはよくないねぇ…」
雪村千鶴という新米教師が、この学園にやってきて数ヶ月。生徒にはまだあまり受け入れられていないが、すっかり土方先生のことはてなづけたらしい。
どうやら彼女がここの生徒だった時代から想いを寄せ合っていたらしい。ただ土方先生は無駄にきっちりなところがあるから、こうなったという。要は未成年に手をつける自信がなかったわけで、その辺りは原田先生を見習うべきだと思う。
「もしかしてあっちの方は校長?それとも理事長??!!?!」
「もしかすると、生徒かもね。」
「あちゃーそっちかー!!」
自室の国語研究室で雪村先生に手を出し、職務を投げ捨ててその腰を振る様子が目に浮かんだ。大事な部分はプライバシーのためにモザイクにしておいたが、大鳥先生のせいでどうやらそこまでではないような気もした。
「雪村先生に聞いたら怒られるかな…」
そう呟いた目線の先に、雪村先生が土方先生と仲良く同じ部屋に入っていくのをみた。
2015-4-2 Thu 13:47
「私を、函館に連れて行ってください。」
蝦夷の地に渡ることを決意した土方さんに、私はそう言った。
土方さんは一瞬目を丸くして、だけどすぐに目を細めて私の名前を呟いた。
「....出港まで時間がねぇ。走るぞ。」
多分それは、私を認めてくれた証。
嬉しさ半分、先に走り出した土方さんに置いていかれないようにしなきゃって気が引き締まる。ここで追いつけなかったら、今後一生追いつけなくなる。物理的にも、精神的にも。
1歩先を走る土方さんが眩しい。
時折急げ、とせかしてくれるけど。いろんな意味でこれからも土方さんは私の先を行くのだろう。
蝦夷がどんな地なのかは、知らない。不安がないといったら嘘になるけれど。
この戦争を激戦地になるであろう場所で生き延びる自信はないけれど。
貴方と共にいれるなら、私は何も怖くない。
目の前にその背中だけあれば、私は安心できるから。
「....っきゃ!!」
思わず足元をすくわれて、私はその場に転がり込んだ。
だめだ、これじゃあ置いていかれる。こんなところで迷惑かけられないのに。
でも違った。
土方さんは私の異変に気付くと、先ほどとは違った声色で私の名を呼んだ。すぐに駆け寄ってきてくれて、そっと体を持ち上げてくれる。
「....この手を、離すなよ。」
小さく握られた手。そして再び走り出す。
この時私は思ったんだ。
これからは貴方の背中を追いかけるのではなく、隣を歩くのだと。
2015-3-11 Wed 23:57
「そういえば左之さんって、どこで髪きってるですか?」
とある昼下がり、沖田は読みかけの雑誌を置いて原田に尋ねた。タイプは違うが、わりとオシャレな原田にはどうやら一目おいているらしい。
「俺は、六本木だな。」
「うわっ、さすがですね。お気に入りの担当とかいるんですか?」
「正直腕前はそこそこなんだけどな、シャンプーした後のマッサージが最高でよ。これまた可愛いんだぜ。」
原田は自慢げにそう言うと、スマホを取り出し一枚の写真をみせた。そこにはカット直後だと思われる原田と、女性が一人。
「千鶴っていうんだぜ。悪いけど、総司には紹介しねぇからな。
「やだなぁ、左之さん。僕は毎回カットモデルだから、お金は払わないんですよ。」
そんな二人を横目に、斎藤は静かにクーポン雑誌を読んでいた。
2015-1-18 Sun 20:35
「あっ!トシさんだー!」
俺の顔を見たとたん、満面の笑みでこの手を握った。
「お疲れ、今日のライブも...よかったぜ。」
「ほんと!?ありがとう、トシさんのことよーく見えたよ!」
そう言われると、ついついこっちも笑っちまう。
あんまりにも無邪気で、一生懸命で、そんなコイツに俺は惚れちまったわけだ。
「トシさんの手...冷たいね。ごめんね、屋外のイベントだから寒かったでしょ?」
「いや、寒さなんて忘れてた。楽しかったからな。」
背後からトントンと、肩を叩かれた。
「2部も見てるからな。」
「ありがとう!待ってます!」
ポールで簡易的に仕切られた通路を通り過ぎると、現実に引き戻される。
後ろ髪を引かれる思いで、アイツを遠目から見れば、思い出すさっきまでの温かさ。
「...CDあと5枚、くれねぇか。」
ありがとうございます、そう言って店員が再び握手券を渡してくれた。
2015-1-9 Fri 23:1
「土方さん、あなたのDNAをください!」
「断る。ってか、無理だろ。」
「失礼、正しくはDNAを採取するためのサンプルをください。採取するための試薬と道具は揃ってます。」
「だから、断る。」
「いやいや簡単なことですよ?髪の毛、唾液、汗それから……そう精え「お前はいい加減だまりやがれ!!」
「うっわつれないなぁ…毎晩行く当てがなくて困ってるでしょ、一人でゴールインして?」
なんならここにだしてください、そうして私は試験管を彼に渡した。
2015-1-8 Thu 10:47
まんまと手品に騙され、土方は目の前に立つ自称超能力者の女を見つめた。
「お前は…ビックカザマーを知っているか。」
「ビック、カザマー…?」
「ああ、鬼の泉という宗教集団のトップだ。…先日俺の知り合いのお嬢さんが、その鬼の泉に洗脳されてな。取り戻してほしいと依頼された。」
土方によると、鬼の泉という宗教集団は多くの信者を集めその勢力を拡大しているという。そしてその原動力は、ビックカザマーの超能力、だというのだ。
「ビックカザマーのインチキを暴き、そのお嬢さんを連れ戻したら、俺はお前を超能力者と認める、いいな。」
懸賞金も全部くれてやる、その言葉に自称超能力者の私の心が高鳴った。
「……でも土方さん、それくらい土方さんで出来ませんか?」
「うるせぇ、ビックカザマーに目を付けられると殺されるって噂だ。俺はこんなところで死ねないんだよ。」
言葉を濁す土方に、思わず思い当たる節があった。
「……もしかして、怖いんですか。」
2015-1-4 Sun 21:18
「怖いか......千鶴。」
「いいえ、土方さんと一緒なら。」
彼の顔は、私のほうを向いていない。だけど、わかる。
彼なら、私を必ず守ってくれると。
小さく彼の体が動いた。この状況を、切り抜ける?
そんなのは知らない。だけど、怖くない。
ついに私たちは、その一歩を踏み出した。
その刹那、目の前が反転する。
私と彼の体は、思いっきり地面に着地した。
「ちょっとおおおおカットオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
監督の声が響き渡る。照明が慌てて切り替えられた。
「ちょっと土方さん!!!!聞いてませんよ、右足からだすなんて!!!左足から踏み出すって打ち合わせしたじゃないですかあああああ!!!」
「うるせぇ、どっちでもいいだろ!というかなんでズッコケるんだよ!!」
「それは土方さんが台本通りにしなかったからですうううううう!!!」
今は劇場版の収録真っ最中、第一部のラストを飾るシーンの撮影が行われていた。
大勢の敵に二人肩を寄せ合わせて飛び込むシーン、そのタイミングが合わなかったせいで盛大にコケたのだ。
「さっきの風間さんとの戦いといい、土方さん少しアドリブきかせすぎです。ここはタイミングが大事なんですから!!しっかり左足からだしてくださいよ!?」
「左も右も関係ねぇだろ!少しは合わせやがれ!」
「何言ってるんですかああああああ!ここはヒロインに合わせるべきですうううううう!!!」
2015-1-3 Sat 0:58
「それでは、運命の結果発表です!」
豪華な半円テーブルの後ろに立つ、雪村千鶴アナウンサーの声が響いた。
ついに高額自腹のメンバーが決定する。
設定金額は一人3万円、値段を見ずにいかに設定金額に近いオーダーをできるか競うこのゲーム、土方・沖田・斎藤・藤堂・原田・風間各メンバーが、自分の名前が真っ先に呼ばれることを祈り続けていた。
また渡されるおみやもこのうちの誰かが負担しなくてはならない。本日は2位の人がおみや代を払うことになっている。
「まずは第一位!3万200円で、ニアピン賞です!」
いっせいにその場が盛り上がる。思い当たるかどうか尋ねられれば、全員が頷いた。
「第一位は......沖田さんです!!!」
彼女の明るい声とともに、沖田が椅子から立ち上がった。大きくガッツポースをし、金一封を受け取る。そしてさらにおみやも手にし、すっかりご満悦だ。
「そして2位は.......2万8千円で、残念ニアピン賞ではありませんでしたが.....そして、おみや代ですね。斎藤さん、おめでとうございます!!」
斎藤は無言でその場を立ち上がった。なんといってもおみや代を支払わなくてはならない。そっと黒い長財布を出すと、その代金を差し出した。ぱらぱらと起きる、拍手。
続いて藤堂、原田と抜けていく。
おみやを手にし、風間と土方の行方を見守るその姿は半分面白がっているようだった。
「それでは最下位の方には、本日の料理長山南さんから領収書が手渡されます!肩をトントンされた方が最下位でーす!」
後方では笑いが起こっているのに対して、未だテーブルに残る二人の顔はひきつっていた。設定金額が3万、多少プラスマイナスはあるが15万の自腹は確実だ。
それではお願いします、その掛け声で山南が動き始めた。
机に突っ伏して風間と土方は、最後の神頼みをしている。
両者の間を動いては、肩に手をかけ、ギリギリのところまで落としていく。
外野が声を出せば、悲鳴に近い声が二人から漏れた。風間、土方、そして風間。しばらく一進一退を繰り返す。
山南の動きが土方の前で止まった。
大きく手が振りかざされると、そのまま一直線に落下。見事に土方の肩に着地した。
「ということで本日は土方さんにゴチになりまーーーーーす!」
風間は悠々とその席を立った。
一人取り残された土方は、領収書を見て漠然としている。
「土方さん、おいくらですか?」
「.......18万3千円...。」
どっと歓声があがった。確かにその金額にも盛り上がったのだが、土方には問題がひとつ。
「あれっ、土方さん本日の手持ち、いくらでしたっけ?」
沖田が覗き込むようにして、尋ねた。
「うるせぇ。10万だよ、文句あるか。」
「ちょっと、足りません?」
「くそっ...総司テメェ.....。」
そうして原田から少々借金をしてなんとか払い終えた土方は、空になった財布をその場に投げ捨てた。
2014-12-10 Wed 20:53
四方八方を敵に囲まれた私たちは、もはや絶対絶対の危機に直面していた。
「心配するな、お前は命を懸けて守ってやる。」
土方さんは、その美しい黒髪を真っ白に変えた。目は、輝かしいくらいに真っ赤になっている。
「……命を懸けないと、女一人も守れないの?」
「……うるせぇ、黙って守られてろ。」
その言葉とは裏腹に、土方さんが私を抱き締める力が強くなった。