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アルファのワタルに絡め捕られるオメガ


「意地を張ってもしょうがないと思うが」

ワタルがなにか言っている。どうせまたあの何もかもお見通しという顔で正論を説いているに違いない、そんなものは聞きたくない。わたしだって解っている、だけど素直に受け入れられるかは別の話なのだ。

黙ってシーツの中で籠城を決め込んでいると、重いため息が聞こえた。機嫌を損ねたのかもしれない、それでもかまわない。できればこのまま帰ってほしい、これ以上…漂ってくるアルファのフェロモンを我慢するのは辛いのだ。いくら抑制剤を飲んでいると言われても、ワタルのような優秀なアルファの香りは抑えきれようがない。微かに漂ってくるフェロモンだけでも、わたしのような劣等種には毒に等しい。

だから発情期には近づかないで欲しいと、なんどもお願いしているのに。

この人は一度も守ってくれない。終いには自宅まで押しかけてくる始末、もういい加減にして欲しい。意味もなく泣きそうになってぐっと瞼を閉じると、突然世界が明るくなった。シーツを剥ぎ取られたと気づくのに時間はかからなくて、反射的に逃げようとしたのは本能だろうか。後ろから伸びてきた大きな手にとって、それは抵抗にすらならないと解っていても____わたしは、逃げたかった。

「噛むぞ」

この雄から、逃げたかった。
____きっと逃げられなくなるって、解っていたから。



(ワタルの、匂いで いっぱい、 )

頭の中がぐちゃぐちゃだ、身体が泥になってしまったみたい。赤い髪が乱れる度に、ふわりと揺れるスパイシーな香りが好き。もっといっぱい欲しくて顔を埋めたら、こらと怒られた。お尻を掴んでいた手がぐいとわたしの身体を持ち上げて、膣から熱が引き抜かれる。亀頭が膣の中を引っ掻いてくれるのはきもちいいけれど、お腹をいっぱいに満たしていたモノがなくなっていく酷く寂しい。

ワタルの頭を抱きしめてイヤイヤと首を振ると、喉で笑うような声がした。どうして笑うの、なにが楽しいの。解らない、等々全部引き抜かれてお腹の中からどろりと溜まっていたものが零れ出す。せっかく、蕩けるほどに彼に愛してもらったのに。ワタルの指が膣口をなぞって、それを促すように膣口を引っ張る。

「ぅ、 ン… こ、ぼれちゃ」
「苦しいだろう、すこし出しておくといい」
「イ イヤ… もっと、もっと欲しい、 ン」

頭の中がおかしくなるほどの熱が欲しい。もっと欲しい。溢れる欲望が止まらなくて、強請るようにワタルにキスをした。目元に、鼻先に、唇に。彼の首に。甘噛みを繰り返せば、くすぐったいと彼が笑う。そうしてわたしの髪を撫でていた手がぐいと頭を持ち上げて、噛みつくようなキスをくれる。数センチ先のグレイの瞳、瞳孔がきゅうって細くなって。同時に口の中に厚い舌が割って入ってきて、ぶわりと彼のフェロモンが強くなる。

呼吸ができない。ワタルの舌がわたしの舌と絡まって、口の中を自分のものみたいに撫でて。呼吸一つ繰り返すたびに、溢れるほどのフェロモンを体中に流し込まれる。彼の匂いに溺れてしまいそうで、気付けば子宮が恋しいと鳴き始めていた。

「はぁ、 ぁ、 も、もっと…」
「…抑制剤はもう良いのか」

___ああ、そういえば。わたしは職場に抑制剤を忘れてしまったのだ、何時も肌身離さず持っているのに。職場のオメガの子が困っていたから助けてあげたかったのだ、わたしは良かれと思って…それが間違いだった。オメガの発情期は、伝染、することがある。彼女に当てられて、ああこれはいけないなと思って。早く帰ろうとおもったのに、…ワタルが、きて。

彼の香りが、いつもよりずっと濃く感じて。
パニックになった。

「ぃ らない、いい いいから」
「避妊薬は、一応予備をもって ふふ、ミシャ 俺の話を聞いてくれ」

言葉よりも、早く交尾の続きをしてほしい。ちうちうとワタルのほっぺにキスをして、彼のそそり立つ熱に秘部を擦り付ける。熱い、灼熱みたいだ。擦り付けているだけなのに気持ち良くて、愛液がわたしの一番深い所からこぼれて彼が欲しいと泣いている。

「いらない?」
「いらないから、はやく」
「ああ、…もっと早くこうしていれば良かった」

「…?」

言っていることが良く解らなかった。ワタルはそんなわたしの顔を愛おしそうに撫でて、「なんでもない」と笑った。彼の手がお尻に添えられて、またゆっくりと熱が戻ってくる。待ち望んでいたものをようやく与えてくれる、ぴっちりと閉じたところをじりじりと押し開かれる感覚が気持ち良くて震えてしまう。それが子宮に辿り着くと、嬉しくて子宮がちゅうと亀頭に吸い付いたのがわかる。受精したいっていってる、わたしの本能が。彼の雌になりたいって、叫んでいる。

「すき、 わた、る 」

沢山気持ち良くしてもらいながら、おかしくなったように繰り返したすきのことば。わたしがワタルを求めているのか、オメガとしての性がアルファの優秀な遺伝子を求めているだけなのか、もうわからなくなっていた。ただ彼の熱が愛おしい、もっと溶ける程に愛して欲しい。それだけなの。

「俺も」

ミシャ、とワタルがわたしを呼んでいる。
子宮に愛を注ぎながら、彼の牙がうなじを噛んだ。まるで誰が主人かを教え込むようなそれが、僅かに与える痛みすら疼きに感じる。嗚呼嬉しい嬉しい、ようやく全部この人のものだ。解っていた、最初からわたしは貴方だけに用意された運命だった。





少しばかり、悪いことをしたという罪悪感はあった。
それはミシャにではなく、彼女の同僚に対して。いつまでも認めようとしないミシャに腹が立ったのだ、だから彼女の情を利用した。

オメガを発情させたいのなら、すれ違うだけで十分だ。すれ違う一瞬で、いつも抑制しているフェロモンを少しだけ強く纏う。それだけでフリーのオメガは簡単に発情してくれる。

予想通り、優しいミシャは自分の抑制剤を彼女に与えた。後は尤もらしい仕事をでっち上げてミシャをおびき出し、カバンの中から予備の抑制剤を回収するだけ。帰り際を捕まえて、フェロモンをたっぷりと纏わせることも忘れない。これで明日になれば、ミシャは発情期に入る。

(…俺の、俺だけの)

ミシャの抑制剤は全て俺が飲んでしまおう、基本的にオメガもアルファも抑制剤の成分は変わらない。耐性はあるほうだと自負しているが、愛おしい…待ち望んだオメガとの蜜時なのだ、自分がらしくなく興奮しているは解っている。だからこんな強引な手を使った。

今までの空白を埋めるように、いつかミシャに全て与えようと溜め込み続けた愛で彼女を殺してしまわないように。抑制剤を飲む。

ごくり。

空っぽの胃に、薬が落ちていく。
嗚呼もう少しで、もう少しだ。漸く…この空腹が満たされる時がきた。待ち望んだ夢の訪れに、早くしてくれと鏡の中の俺が笑った。

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