OTHER NOVEL | ナノ

お姉さんは折原臨也に集るつもりのようです


「で、今まで何してたのさ」
「えっ?まあいろいろ…ってか、いざにゃんどこ行ってたの?」
「…君が襲った佐川のイケメンに謝罪と口止め料払って来たんだけど?」

ばたんと扉を閉じて嘆息する臨也に、何時の間にか部屋に上がって我が物顔でソファに凭れたひなみははてと小首を傾げた。

「なんで?」
「……もう良いよ。それよりそれ、返してくれないかな?」
「それってどれ?」

そう言いながらへらへらと笑い、ひなみは持っていた小包を見せびらかす様に振った。その様子にイラッっとしながら臨也は努めて平然を装い、ゆらりとひなみに近づいた。

「いやぁ、だからさあ…」
「ん?なになに?」
「ソレ、だよっ___!」

ひなみが座るソファまで半歩を残し、臨也は隠し持っていたナイフを振り抜いた。半歩の距離を一瞬で詰め、半弧を描くようにして鋭利な銀色が煌めいた。狙うは茶封筒を持つひなみの手首___!

きょとんと眼を丸くするひなみに、臨也は確実な手ごたえを感じた。だがそれは間違いだったと臨也は数秒後に身を持って感じることになる。敗因はなんだったか、十数年音沙汰なしだったひなみへの怒りか。それとも自分という存在に師がいることへの反抗心か。ただ一つ言えることは、臨也は測りちがえたということだ。
彼が勝機を見出したのは、10年前のひなみであり、今のひなみではないということ。

「こわいね」
「っ!」

ひなみが呟くのと、臨也の手首が掴まれるまでコンマ1秒の誤差。
その差は臨也の思考処理と視界情報に微かなブレを起こし、それに気づいた時には既に臨也の体は宙に浮いていた。

「_____!!!」

まるでぬいぐるみでも振り上げる様にして、臨也の体は腕1つで投げられたのだ。
ソファの後ろから手前へと。空中で臨也が目を見開いている中、ひなみがくすりと笑い、何時の間にか左手に持ち返えいる宅配物を悪戯に振って見せる。その姿に10年前の『ひなみ』が被さる_____それを自覚した瞬間、臨也はニヤリと。

「っ」
「おっ」

がしりと、臨也の手が自分を振り上げているひなみの手首を掴む。そうして持ち上げられた自分の体を器用に繰り、タンッとひなみの目の前に置かれたローテーブルに着地する。その様子にひなみが「アハッ」と笑うのと、臨也が手をぎちりと骨が軋むほどにねじり上げ、ひなみの喉元めがけて袖の中に隠し持っていたナイフを突き出した。だがナイフがひなみの喉元を掠るよりも先に、

「っ!」

ひなみ自身が、臨也へと向かって来た。予備動作もなくソファから身を起こしたひなみは、臨也に掴まれた腕に素早く身を寄せた。そうして自重を使いテーブルの上にいる臨也へと倒れ込む様にして伸し掛かったのだ。そうやって目の前に迫って来たひなみに、咄嗟に臨也が右足で振り払おうとするも、それは振り抜く前にひなみの手によって遮られてしまう。そして、

「ちゅ」

いともたやすく、唇を奪われた。

「ふっふぅ強くなったねいざにゃんっあったし優しいからさっ、このお荷物あげようか?ぶざまに負けたいざにゃんにあげちゃおうなあー?」

そうやって、臨也に馬乗りになって笑うひなみ。臨也はそれにふっと笑うと、

「…酔ってるだろ、お前」

びきりと青筋を立てながら、口元に掠めた酒臭に苦い顔をする臨也に「えーなんのころお?」と笑うひなみは、確実に酔っ払いだった。




「ほら」
「…いざなーんっコレお酒とちゃうでえ?」
「何処に泥酔してるバカに酒飲ませる奴がいるの?水だよ、目醒ませ」

そう言って臨也に押し付けられたコップを両手にひなみはムスゥと顔を歪めた。不満を隠そうともしない、まるで子供の様なひなみの様子に臨也は笑う。直後、ひなみの膝に無防備に置かれた宅配物を奪うべく素早く腕を伸ばすも__

「ハイ、カット」
「っ!」
「あはっ甘いよいざにゃあん。何より甘いって、もう砂糖ガバ入れしたアメリカンスイールより甘いよぉ〜ゲロ甘!」

そう言って、臨也の腕を蹴りあげるようにして払った足をぷらぷらさせるひなみに臨也は盛大に舌打ちをして見せる。

「に、しても少し見ない間に偉く踏み込んだみたいねえ」

グラスの水を一気に飲み干すと、ひなみはグラスを置いて宅配物を見た。そこに書かれた送り主と住所を見て、それまで酒気に溺れていた瞳をゆるりと細める。

「…エアメール、か」
「…いい加減、返してくれない?それないと俺仕事できないんだよね、お得意先の依頼だし、折角積み上げてきた信頼を水の泡にしたくないんだけど」
「ふっ…いざにゃんの口から『信頼』なんて言葉が出る日が来るなんてね。おねーちゃん吃驚だよ」
「そういう仕事なんだよ、」
「一体どんな仕事だか__まあいいや、返してあげる」

そう言って無造作に投げられた宅配物をキャッチする臨也を横目に、ひなみはくすりと笑った。

「好きなようにやってみるが良いよ。何事も経験っていうし、可愛い子は崖から着き落とさないと」
「…一応言っておくけど。俺は君の子どもではないし、崖から落とされる予定もない。逆に…突き落としてやるつもりはあるけど?」

そんな臨也にひなみはやはりくすりと笑った。その笑みは、こちらもそのつもりはないと雄弁に語っていた。

「____あ、言い忘れてたけど」
「なに?」
「暫くやっかいになるからヨロシク」
「今すぐ帰れ」

直後、絶対に嫌だと主張する臨也にスーマンコンプレックスを決めひなみは穏便にことの了承を得るのだが…それはまた、別の機会に。





「まあ、あたしも遊びで来ちゃった訳じゃないし?仕事はするよ?だから許せ!あと酒くれ!」
「アルコールのみすぎて死ね」
「やあんいざにゃんかあいくないこと言うとお〜…あられもない所暴いてアーンなことやコーンなことしちゃうぞ?」
「それイントネーション間違ってちょっと!何するつもり!止めろっ触るな変態!ベルトを外すな!!!」
「ふふふぅ良いではないか良いではないかあ」
「キモイんだよクソ野郎!!!」

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