OTHER NOVEL | ナノ

平和島静雄の幼馴染と風邪っぴき幽くん


それに気付いたのは今朝のことだった。

何時も通り激甘党な平和島家長男の指示通り大量の砂糖をぶち込んで卵焼きを焼いている時、「・・・・・・おは、よう」と、何時もに増して消え入りそうな声で幽くんが起きて来た。

料理中は目を離せないので「おはよう」と返して、卵焼きをくるりと返す。
「はよ、幽」と、ブラコンな静雄さんが言えば、こちらもブラコンな幽くんがすぐに___ん?今日は返事がないな。珍しい。

「おい、幽。お前、顔真っ青だぞ」
「…へ?」

テーブルについた兄弟から恐ろしい言葉が聞こえたぞ。思わずヘラ落としちゃったじゃないか。

「っ、おい、ひなみどうした?」
「ちょいまてちょいまて」

もう卵焼きとかどうでもいいわ。ばちんと火を消して、手を洗って、ばたばたとキッチンを出る。

「ちょっと、幽くんこっちむいて」
「・・・・・?」

明らかに何時もよりスローな幽くん。顔色はまあ、わるいかな。「ちょっとごめんね」と断りをいれてから、細くて綺麗な髪を分けておでこに触れる。ううん・・・熱い、かな。うそん、いやーだー、しんじたくなーい。

「ね、えさん?」

幽くん。ほんとに可愛いな。て、いまそんな場合じゃない。

「幽くん、頭いたい? 喉は?」
「え」
「あ、どうしよっか。酷くなるとな、てか新型だったらいやだし」

今、流行ってるんだよな。いや、まさか。でも、ありえなくはないか・・・

「どっちにしても今日は休もう。学校には連絡するから、」
「え、」
「とりあえず熱はかって、病院行こう。ああ、幽くんの保険証どこだっけ?あ、その前に幽くんは着替えておいで、楽な服装にね」
「お、おい、ひなみ?」
「しいちゃん、今日は購買にして」

もうお弁当作ってる暇ない。
あっと、体温計。体温計・・・どこだっけ。救急系はこの辺りに全部あるから、あ、あった。
保険証はどこだ。香澄(平和島家の母)さんに電話するかな。

未だぼんやりと椅子に座る幽くん、あ、これはまじでやばいかも。体温計を使うために、幽くんのネクタイをゆっくりと外していると、はっと戻ってきた幽くんが「や、やる___じぶん、で」と言ったので大人しく手を下げた。

「お、おい、ひなみ。まさか幽は」
「うぅん…熱測ってないからあれだけど、多分完璧だね。この時期だしインフルかも。最悪、新型って可能性も…」

そう言ったら静雄さんの箸がばきんと割れた。

「ぎゃあ!!」
「な、なな、か、幽がっ・・・!」

見る見るうちに顔を真っ青に染める。どんだけ。
ワイシャツのボタンを開けた幽くんに体温計を渡しながら、そんなことを思った。多分彼のことだから、テレビでやっていることを丸呑みしているんだろう。主に死率について。

「幽!」
「うっるさいっ。大丈夫、幽くん死んだりしないから!」
「や、やっぱり悪いのか?」
「大丈夫、多分・・・ただの、風邪だから。昨日は、なんもなかったし、」

「だから落ち着いて、兄さん」と、ちょっと上気した顔で幽くんが言った。うん、自覚したらそれっぽくなってきたのかな。ぴぴ、お。

「さて、どんくらいかな」

早く出せと催促する私に、幽くんは緩慢な動作でそれを抜いた。
当然、そうすると幽くんはさきにディスプレイを見ることになるわけで___見るなりぴしゃりと顔を固まらせた幽くんに、ああ、これは病院コース決定だなと、私は思った。

「はい、見せてね」

今の幽くんからそれをひょいと奪うのは容易だった。37度8分。こりゃまずい。今夜辺り大変だな。

「ひなみ、どうなんだ!」
「うん、熱あるね。病院行こう、幽くんは着替えておいで」
「え、でも」

「はやくしなさい」

そうきつい声音でいえば、幽くんはこくりと頷いてとぼとぼと自室へ向かう。体温計を戻しながら今日の予定を頭の中で組み立てていると、静雄さんが「お、おい」と声をかけてきた。

「ん?」
「幽のやつ、大丈夫なのか?大丈夫だよな?」
「うん。2日3日は大変だろうけど、問題ないよ」
「大 変 な の か !」
「風邪だからね。幽くんを早く治すためにも、協力してね」
「お、おう!俺にできることならっ」

意気込んでいる静雄くんには、とりあえず夕飯は自炊で頼もう。暫く私は幽くんに付きっ切りだろうし。あ、ともなれば学校いけないか。

「しい」
「んあ?」
「まだわからないけど、とりあえず今日明日は私学校いけない」
「おう、幽の看病の為だな」
「うん」
「俺も休む」
「いや、しいは行ってください」
「な ん で だ !」

当たり前だろ。

「私の分、ノートとって」
「し、新羅に・・・」
「しいまで休んだら、逆に幽くんがこまっちゃうよ」
「んなこたぁ・・・!」
「行ってください」

駄々をこねる静雄を無理やり追い出して学校へと送った。
私は学生鞄から手帳を取り出し、幽くんの学校の番号を調べた。電話して、担任の休むことを伝えた。その後、香澄さんに電話して事情を話す。保険証がやっとでてきたよ。

「姉さん…?」

ぼんやりとした顔でリビングにやってきた幽くん。申し訳ない。そう書いている顔が少し赤くなっている。私は笑って、そんな彼を手招きした。すると、とてとてとあどけない足取りで幽くんが寄って来た。

細くて頼りない体を支えて、そっと椅子に座らせてあげる。何か、いや、謝りたそうな彼があまりにも頼りなくて、可愛くて。私は苦笑して、幽くんの柔らかい髪をそっとなでた。

「なんか飲みたいものある?」
「なんでも・・・」
「じゃあ、麦茶でいい?」

こくんと頷いた幽くんに笑って、私はキッチンへと向かう。
冷蔵庫には風邪用の飲み物がない。帰りにアクエリアスとか買ってこよう。麦茶を幽くんに渡して、私は携帯を開いた。電話帳から行き付けの病院の番号を引き出してコールする。その後ろでがうろうろしてた。

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