OTHER NOVEL | ナノ

つまるところ折原臨也はプロポーズしたい



「そういえばキミ今年で幾つ?あー、21か、もう歳だよね。は?何言ってんのさ、21なんてもう年増だよ年増。年上の俺に言われたくないって?あのね、俺は永遠の23歳なの。年月という概念に捕らわれた君と一緒にしてもらっちゃ困るよ。…あ、ってことは大学今年で卒業だよね。どうするのこの先?就職は勿論決まってるんだよね?えーまさか決まってないとか言わないよね!___決まってないんだ、笑えない冗談だね。___へー、沢山面接受けたのに悉く落ちたの。それはご愁傷様。俺?俺はこのまま趣味半分の情報屋を続けるよ。自由業でもニートでも言うが良いさ、それでそんじょそこらのサラリーマンを遥かに凌ぐ年収を得ている俺は明らかに勝ち組だからね。まあ、俺の話はどうでも良いんだよ。問題は君、そう君だよ。本当にどうするつもりなの?そうやって今まで通り俺の家で家事担当してるつもり。___別に、邪魔だとか思ってないから、その顔止めて。で、どうするつもりなのさ。馬鹿な君でも少しは考えて______ないんだね。あー良いよ、言わなくて。君にそんな高度な事を要求した俺が馬鹿だった。ホント、君は昔から生きる気力に欠けているというかなんというか…。__いいや、そうだった。君は昔からぼーっと情けない顔してた。顔は関係ないって?は!そのとろくさい顔を理由に苛められてた君に反論する余地はないよ。まったく、顔だけならまだ救い様があったけど、行動と思考までワンテンポもツーテンポもずれている上に遅れてちゃねぇ。そんなんだから彼氏もできなんだよ。このままじゃ一生結婚もできないんじゃないかな。君みたいな面倒な上に馬鹿な女、好き好んで配偶者に選ぶ男なんて__あ、あーつまり奥さんってこと。話の流れでその位解ってよ、話が続かないな…。__は?ちょ、今なんて…告白?誰に、何時、何処で__5W1Hとかどうでも良いから早く答えて。___山田?嗚呼…君の大学の同級生か、あの冴えない男ね。成績は最悪、顔も最悪、運動はかろうじてできるけどそこどまりの特徴も何もないあの男___へえ、カッコいいね、あの男が…、へえ…







まあ、俺にはどうでも良い話だけど。関係ないしね、君がそれにどう答えたとか____断ったんだ、ふーん…君にぴったりな木偶男だったのに勿体ない事したね。別にどうでも良いけど………おかわり。

ありがと。で、どうするのさ。__だから、就職だよ。まさかニートになるつもり?__フリーター?君ホント何言ってるの。フリーターっていうのは他人を意に返さない図太さとバカみたいな体力を前提としたものだよ?それに君みたいな脆弱で軟弱で病弱なひょろっこい女が成れるとでも思ってるわけ?___はぁ……世間知らずも、ここまで来るともうホント…はあ…__溜息着くなって、いったい誰の所為でこの俺が頭を悩ませてると…え?じゃあ君でも就ける職業はないのかって?他力本願だなあ…………………別に、なくもないけど。__やめて、そのキラキラした目止めろ。気持ち悪い潰すぞ!

まったく__え、どんな仕事か?あー…そうだな、取り敢えずバカでも成れる。___なにさ、もっと嬉しそうな顔したらどう、お誂え向きじゃないか。__それでって?……まあ、仕事内容は今と差して変わらないよ。家事全般って感じ。まあ、その代り職場から出られなくなるけど。___何その嬉しそうな顔。普通嫌がる場面なんだけど…まあ、引きこもりの君は普通とは大分かけ離れてるけど。電話?電話はまー…良いんじゃないかな。出られなくなるって言っても、トイレや風呂には好きに行って構わないわけだし。__給料ね、まあ結構良いよ。うん、取り敢えずサラリーマンの年収は目じゃないとだけ言っておくよ。

___どうして出られないかって?君にしては賢い質問だね。……まあ、雇い主が危ない仕事をしているからかな。___あ、別に君がやる仕事は危なくないよ、死体とかないから。ドラックもない。ていうか、俺がそんな精密さを要求される様な仕事を君に紹介するわけないだろ、どんだけ無謀なんだよ。…ま、君には解らない世界だろうけど。__あー、話戻そうか。つまりそう言う事だよ。雇い主の仕事上の問題。君の存在がばれると色々面倒なんだよ、キミ自身も危ないし、だから部屋から出さないのが一番良いんだ。そういう理由だよ。__雇い主?あー、まあ君がぼやいてた山田よりは断然良い男だよ。世間的に見てもね、__ホントだよ、なに?疑ってるの?生意気。

え、本気で考えてるの?__え、いや、別に良いけど…俺が紹介したわけだし…イヤと言う訳じゃ___え、俺と会えなくなるのか?…あのさ、俺が紹介してんだよ?そんな訳ないだろ………むしろ毎日顔合わせる羽目になるかもね……それが嫌なら辞めた方が____そ、そう。なら、良いけど……

………、……………、なにさ。他にも聞きたいことが?





ひなみ、ホントにそれにするつもり?好きな人とかいないわけ?___いたら勤まらないかって、そりゃ勤まらないよ。…あーえっと、つまりだから、その仕事はその雇い主の男に一生使えるっていうか、あ、そう、メイド。メイドみたいなもんだよ。ずっと雇い主の側に居てずっと雇い主だけを考えて生きて死ぬ仕事だから。___無理って、また豪く断言するね、まあ…良いけどさ、一応訊くけど、なんで?」「その雇い主が臨也さんだったら別に良いんだけどね、他の男の人だとそこまではできないかなって……臨也さん?」

こてんと馬鹿みたいな顔で馬鹿みたいに首を傾げて来るこの女はホントに馬鹿だと俺はつくづく思う。なんだコイツ本当になんなんだ。思えば小学生の頃からずっと一緒に居る気がしないでもないがそれは別に俺がそうした訳じゃない、この鳥女が俺の後ろを懲りずに着いて来て、いや付きまとって来たんだ!

大体、こいつは俺に損害しか与えない。コイツが俺に何かしてくれたことなんてない!何時も馬鹿みたいな顔して付きまとって来るだけで何か特別に俺にしてくれたことなんてなかった。そう、こいつは俺の面倒みているつもりなんだろうけど面倒をみてやってるのはこっちだ。直ぐにこけるから目が離せないし、包丁持たせれば危なっかしい使い方しかできないし、掃除機を足にぶつけて何時も痣だらけにしてるし。そうだ、就職活動の時だって。この馬鹿と来たら裏で汚い仕事している会社にばかり行くからこっちがひやひやして堪らなかったんだ。一体誰のお蔭で×××を××する仕事や××を××る仕事をしないで済むと思ってんの?俺が、この俺が態々裏から手を回して落としてやったからだろ。なのにこの馬鹿はそれも知らないで就職先探してるわフリーターとか良く解らないこと言い出すは挙句の、挙句の果てには本当になんなんだこの馬鹿女!

「……、」
「あ、あの臨也さん?えっと、風邪ですか?」
「何をどうすればこの数十秒の間に風邪引くのさ」
「ぁう、えっと、ご、ごめんなさい…」

そう言ってしゅんと項垂れる顔に俺のイライラは増すばかり。肌の上をちりりと走る静電気の様な不快感に舌打ちして深く深くソファに埋もれた。ぼふりと両親が居ない癖に手入れの行き届いたそれに埋もれながら見上げた天井は見飽きた木目。子供の頃はこれが凄く高くて手の届かないものの様に感じていたが、今はそうは思わない。身長的に背伸びしても届かないけど、机や椅子を使えば容易に届く距離だ。そう、俺は大人になった。

届かないものを手にするための知恵なら、十分なほどに。

「___ひなみ、」
「はい?」



「結婚、しようか」





呟いてみたものの返事がない。おそるおそるソファから起き上がれば俺の足元にちょこんと座っているひなみが目を見開いてこちらを凝視していた。変な顔だ。こっちからアクションを起こすのは癪だったのでじっと見て待てば、変な顔は赤くなったり青くなったり忙しく表情を変え始める。あーもう本当にコイツ馬鹿だな。


「____臨也さん私のこと好きなの!?」


待った挙句にできた言葉に思わず吹き出してしまった。そんな俺にひなみは顔を真っ赤にしてうろたえている。あーもう本当に馬鹿だよね。まあ、そんなどうしようもない馬鹿なひなみだから、俺くらい賢い奴じゃないと釣り合いが取れないよ、きっと。

「ひなみはどうなのさ」

意地悪く返してやればひなみはぱくぱくとまるで魚の様に口を開閉させる。言葉は無いけど、答えは十分な程に伝わってくる。でも解らないふりをして待てば、ひなみはすっぱいものを食べた様な顔をしてから、「………すき?」と言った。

「か、かも」
「かもなんだ」
「え、だって、あ、改めて聞かれるとわかんない」
「___じゃあ、質問を変えよう」
「?」
「ひなみは俺と死ぬまで一緒にいたい?」




あっさりと返ってきた言葉に、俺は思わず腹を抱えて笑ってしまった。不思議そうな顔をしながら怒るひなみに「好き」の二文字は、どうやら早すぎたみたいだ。

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