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なんとしても個人情報が知りたい球磨川禊


結論から言うのなら、交通事故の様に恋に堕ちた球磨川禊がそれでも時計塔に向かった。それは球磨川禊という過負荷がどうしようもなく負完全でジェイルオルタナティブが面倒だったからかもしれない、それはこの物語においてそれがバックノズルであったからかもしれない。だが、それは現状における球磨川禊にはどうでも良いことだ。そんな“面倒事”の理屈付けは読者様にでも任せて置け、




「『めだかちゃん久しぶりっ』『僕だよ』『!』」

唐突に現れた球磨川禊の姿に、どうにも衣裳がボロボロで如何にも戦って来たヒーローさながらの風体である黒神めだかは絶句した。彼の周りには今し方串刺しにされた14人の播画がある。___彼らには解らないことだが、現状に置いて相違点が二つある。

一つは現状の酷さ。

とあるやんごとなき事情により18年間一機嫌が良かった球磨川は、つい手が滑って殺り過ぎてしまった。もう少しすると週刊少年ジャンプの掲載コードに引っ掛かるところだ。

一つは球磨川の語尾の括弧『!』である。

とあるやんごとなき自情により18年間一混乱していた球磨川は、括弧つけようと思っていた登場シーンで感情を零れさせてしまったのだ。

そう、球磨川禊は混乱していた。

あれから10分は経っているのに全く自分を把握できないでいた。コレはなんだ?自分の中を駆け廻る悪寒はなんだ?理解できない、できないできないできないできない……。現状の酷さは、感情を制御できない子どもが泣いて喚き散らすのと同じで、球磨川の八つ当たりの所為でもある。そう考えると、14人は完全に当て馬だった。(それこそ、週刊少年ジャンプでヒーローがヒロインに見直されるための必須イベントに現れるお決まりのモブみたいに)

「球磨川… 禊…!!」
「『いいや違う』『僕は球磨川禊じゃない』『彼の双子の弟の』『球磨川雪だ』  『なーんてね嘘嘘っ!』『引っかかったあ?』」

そう言って飄々と振舞う球磨川禊に、黒神めだか一同…特に中学時代の面子は動揺を隠せない。大きな問題が1つ片付き、敵も味方も一緒に仲良くほのぼのとしてい所に堕ちて来た仕様のない黒一点に完全に翻弄されていた。いや、負一点と言うべきだろうか。

そんな彼が、何時も通り無責任に無関係に振舞う中ひとりだけその異常に気付くものがいた。言うまでもない、行橋未造である。十三組の十三人(サーティーン・パーティ)の表六人(フロントシックス)として「フラスコ計画」の中核を補う一人、その異常性(アブノーマル)から「狭き門(ラビットラビリンス)」。彼/彼女の高が異常性である「受信感度」が都城王土の傍らにいながら負完全である球磨川禊の電子波を受信できた原因は2つある。

一つは球磨川禊が自分では到底制御しきれない感情を持て余してしまったから。

一つは宇宙誕生(ビック・バン)よろしく生まれたそれはあまりに幼く、まだ他界から自己を守るための時間(シールド)も何もできていない不完全であったからだ。

(…? これ、なんだっけ)

久しく感じたことのない電磁波に行橋は困惑した。それは確か、病院で良く受信する感情だった。だが、この時の行橋にはそこまでしか分析できなかった。なぜならこの後に行われた会話があまりにも衝撃的な内容であったため、思考することがぽんと抜けてしまったためだ。

「………おい、それで私にはなにもないのか? 球磨川」

黒神の言葉に球磨川は振り返る。善吉、阿久根、喜界島、真黒と___一通り挨拶を終えた球磨川に、黒神は続ける。

「折角の再会で、折角の機会だ。私に言いたいことがあるなら言っておけよ」
「『んー?』『僕が』『めだかちゃんに』『言いたいこと』『ねぇ―――』」

業とらしく語尾を切った後、球磨川はパチンと弾かれたように振り返ると大股で黒神に近寄った。異様なその様子に誰もが息を呑む中、黒神めだかはそれでも凛と向かい立つ。眼前で足を止めた球磨川禊を前にして、じっと次の言葉を待った。

「めだかちゃっ__!」

その様子に善吉が悲鳴のような声をあげるが、今の黒神めだかを止めるにはあまりにも無力だった。ずくずくと、時計塔の血まみれの廊下を這いずる様な重い空気が支配するなか、球磨川は変わらないその様子で言った。

「『めだかちゃん』」
「___なんだ」

その声に震え等微塵も無かった。球磨川はそんな黒神にくすりと笑うと、ついと上げた手で____がっしりと黒神めだかの手を掴み取った。

「___!!」
(めだかさん__!!)

それは動きを拘束されたも同じだ。喜界島が息を詰める前、阿久根が耐え切れずに足を踏み出す前、それよりも先に球磨川はニタリと笑って言った。







「今日の7月17日午後13時54分から55分にかけて本校舎の三階廊下を歩いていた女の子のこと教えて」







場が凍りついた。擬音をいれるなら此処はピシリッではなく、敢ての無音であろう。シンッと一瞬にして静まり返った世界で、いち早く我を取り戻したのは黒神くじらであった。



「……あ゛?」

意味が解らない。その呟きは、一同の心情を代表していた。

「アイツ何言ってやが____」

「具体的に言うと、身長は150cm前後で体重は推定40s前後。髪は撫でくり回したくなるみたいなツヤツヤのダークブラウンで、まるで小動物の尻尾みたいにポニーテールに纏めてぴょこぴょこ跳ねさせている子だよ。癖っ毛みたいでところどころ髪が跳ねててすっごく可愛かった。あんな髪型で僕に駆け寄って来られたらもう可愛すぎて天国イケる。あ、でも他の奴らに見られるの嫌だから下ろして貰おうかな、ほら男ってゆらゆら揺れているものに弱いって言うじゃない?だから一応対策としてねっ悪い害虫が着いたら困るもの。きっとどんな髪型でも似合うだろうな、とても清廉で上品なイメージだったから僕的には着物を着てアップに纏めて欲しい。もう夏とかそんな恰好で項に汗流していたら押し倒しちゃっても仕方ないよね。僕は悪くないよ、あんな魅力的な彼女が悪い。それであんな真ん丸でくりくりした目に見つめられたら僕堪らなくなっちゃう。綺麗な透き通るような朝焼け色なんだ。あの目に僕を映してくれるなら僕は何でもするよ、具体的には裸で北極横断するくらいは余裕だね。あ、でもそんなことしたら変態だって僕の事嫌いになられちゃいそうだからやっぱ止めた。でもきっと目に涙をためて大嫌いと言う彼女も最高に可愛いと思うんだ。具体的には押し倒して服剥いでピ――してピ――した後に、じっくりピーをピーして泣かせちゃうくらいかな。あ、勘違いしないでね、苛めたい訳じゃないんだよ。泣かせたいっていうのも、性的にって意味で…ああ、でも普通にぼろぼろ泣く彼女も最高に可愛いだろうな。ほら、僕サドっぽい所あるからさ、そういうの堪らないっていうか…ね。この学校の制服セーラーとかナイスチョイスすぎる。ワイシャツでは見れない鎖骨がヤバかったよ、窓越しに見ただけだから足まで見えなかったことが悔やまれるね。あの距離関係なら壁さえなければあんな所からそんな所まで見えたのに…いっその事校舎の壁全部剥してガラス張りにしようか?あ、やっぱ今のもなしで!そんなことしたら他の男にも見られちゃう、僕の彼女なのに。全部僕のなのにそんなの許せない。もう何もかも否定して螺子伏せるだけじゃ足りないよ。そんなことあっちゃいけない愚行だ、社会的に抹殺したとしても僕の気は晴れないと断言できるね。あー…そんな事考えてたら心配になって来た。今毎何処で何してるのかな。変な男に捕まってるかも、早く僕が助けてあげないと!だからお願いめだかちゃん!!中学時代のよしみで、今すぐに僕に彼女の名前と所属クラスと委員会と部活、それに正確な身長体重に視力、血圧、足のサイズから成績、病院通院歴、序に現住所と電話番号、携帯番号、メールアドレス、PCアドレス、暗証番号、ツイッターアカウント、誕生日と血液型もっ好きな食べ物とか__ああ、もうっ他は僕が自分で訊くから、取り敢えず今言っただけ今すぐ教えて!!!!」

「…る」

ぽつりと呟かれた台詞。この以上地帯の中で確りと台詞を言い切った黒神くじらは後で「お前スゲェな」と感嘆されるのだが、それはとりあえず黒神めだかの硬直が解ける12秒後のことである。

ラヴェルのボレロで恋に落ちる(君に蕩れる)

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