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球磨川禊の一目惚れ



週刊少年ジャンプには必ず、ヒーローにはヒロインがいる。
彼らは出会いから「連載終了」まで絶対的に惹かれ合い、相思相愛になるというハッピーエンドが約束されている。そうまるで赤い糸で繋がれているように、彼らは出会い恋に堕ちる。

でも彼らにはそれが与えられない。だって彼らは主人公の通過地点であり、彼らがより輝くために___踏み台にするためだけに生まれ、生かされた存在だから。稀に作者が彼らに恩情を与えることもあるが、それは読者側の時勢のためだ。都合良くするためだけに妄想され、提供された関係に過ぎない。

だがそれがなんだ、と球磨川禊は言う。
「『最高じゃないか。』『なら僕は君たちの享楽が為に、彼らが思う通りそれを受け入れよう。』『そして君たちが期待する通りに救われたフリをして、彼らの思慮の及ばないところで全てを台無しにしてあげる。』『それが無能力者(マイナス)の仕様のない末路だ、能力者(プラス)の言う事には従わなくちゃね。』『それがこの世の掟だ。』『だから楽しい連載が終了したその後で、ソレがどうなってしまおうと』___『僕は悪くない』」

圧倒的なまでの激情、
絶望的なまでの劣情、
唯一無二の人生の伴侶、
___そう言ったものに覚えのある球磨川禊は、だからこそ服う。自分もそう言った妄想をしたことが無いわけじゃない。だって彼らは過負荷(マイナス)…ありえない現実への悲願、報われない好意など一般教養だ。与えられたモノがゴミ屑であろうと何であろうと文句など言わない、それが現実における無能力者(マイナス)の立場というものだ。

だが同時に、球磨川禊はどうしようもなく「負完全」なのだ。
無意味で、無価値で無関係そして___無責任。自称「ぬるい友情、無駄な努力、虚しい勝利」をモットーにしている彼はそれでも探すのだ。

運命ではない誰かを。自分が選んだ自分だけの人生の伴侶を。
____愛してくれなくとも、愛せる誰かを。

それが箱庭学園に来る前の球磨川禊を構成する一つの考え(マイナス)だった。
だがそれは、一秒後に瓦解される。

完膚なきまでに破壊され、凌辱され、打破され、壊滅され、解体され、強姦され、浸食され、撲滅され、荒廃され、___ぶち壊された。

その存在が視界に入った瞬間から、その暴力に良く似た衝動が球磨川禊の内側を駆け巡った。それは決して外界から与えられた刺激ではない、内側に眠っていた本質が認知と言う刺激により爆発したのだ。

まず感じたのは飢えだ。
仕様のない、喉の渇き。それは興奮から体温が上昇し、呼吸が儘ならなくなった為に過剰な呼吸を繰り返したからかもしれない。

そして背筋を駆け上る疼き。
仕様のない、劣情。それはただ単に思春期真っ只中の青年が異性に感じる性的衝動だっただけかもしれない。

最後に脳が焼き切れるような合点。
仕様のない、懐古。まるで、子どものときに失くしてしまったモノを、大人になってからごちゃごちゃに物を詰め込んだおもちゃ箱から発見できた様な_____



そんな、「感じ」だ。
(____やっと、見つけた)

疑い様も無い確信が心臓を異様なほど高鳴らせバクバクと心臓を鳴らす。嗚呼きっと、一ミリも、一グラムも、原子ほどもなく「彼女」だ。

魅力的な人格?魅力的な心?魅力的な容姿?__そんなモノがどうかした?
そんなの自分が信じられない奴が語る屁理屈だろう。これはそんなちゃっちいものじゃない。断じてないと言い切れる、この瞬間あの一瞬数秒前の世界に確かな自信をもって言い切れる。



「これは必定だ。」と、



与えられたものを享受するしかない過負荷なんだから、良いじゃない。
速く、疾く、僕に彼女をちょうだいよ。

自分の目的も、モットーも忘れてそんな括弧よくない言葉を零してしまうほどに球磨川禊は落ちた。

「恋」に堕ちた。
それを社会一般は一目惚れなんて揶揄するけど、まあ良いだろう。
その瞬間の球磨川禊はそれを許してしまえる程度には機嫌が良かった。


ライン・オブ・ダンスで出逢う(入抱く)

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