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零崎人識の<お姉ちゃん>。


姉貴に初めて会ったとき、腹が背とくっつきそうなほど腹が減っていた。

当時の俺には擁護者がいなくて(まあ、俺が殺したんだけど)それなりに日々の暮らしに苦労していた。だが不満はなかったし、不安なんて欠片もなかった。でもやっぱり腹は減るし、暖かい寝床はほしい。そんでもって今日はどうすっかなって考えてた時に、姉貴に会った。思えば、そん頃はもう兄貴が俺を探していた時期なんだよな。なのに探してもない探されてもない赤の他人であるはずの姉貴と先に会ったのは、なんつーか、傑作だ。んで、俺は姉貴に会った。俺は姉貴に「どうしたの?」と訊かれた。まあ当然だ。小さい餓鬼がおんぼろの格好で人気のない道歩いてたらそう訊くわな。お節介な姉貴ならなおさら。俺は「おなかすいた」と答えた。特に考えてなくて、適当にそう言った。そしたら姉貴は「そう」と言って俺の手を引いた。殺すことは容易すぎた。でも俺は殺さなかった。殺せなかったわけではない。殺そうと思わなかったわけでもないし、殺そうとしなかったわけでもない。本当に、殺せなかったんだ。俺はその後、姉貴の上着を借りた。暖かかった。姉貴と一緒にファーストフードを食べた。美味かった。姉貴と一緒に交番に行った。変な気分だった。そこで、俺と姉貴は一度別れた。そして俺は、交番のクソみてぇな警官を解体した。だってあいつ、姉貴を変な目で見やがったから。徹頭徹尾に解体してやった。そうしてしばらくして、俺はまた姉貴に会う。今度は俺から。俺が探して、姉貴に会う___会いに行ったんだ。





「姉貴、腹減った」

あの時と同じ、姉貴に初めて会った時と同じ季節がきた。
この季節になると、なんだか無性に姉貴に会いたくなる。別に人恋しいわけじゃない。なんつうか、…そう胸のあたりがむずむずするんだ。それで落ち着かなくなる。だから、俺は姉貴のところに行く。最近大学に上がった姉貴が一人暮らしを始めたマンションに押しかける。

「久しぶり、人識くん」

アポなしの俺に驚きもせず、姉貴はそう言った。
扉を開けて直ぐに抱きついたが驚かず、胸に顔を埋めたにも怒らず、ただ姉貴はそう言って当たり前のように俺を受け入れる。くんと鼻を利かせればボディーソープの香りがした。そういえば姉貴、香水とかつけないよな。今度手土産に買ってきてやろう。そんな事を考えながら、ぐりぐりと顔を埋める俺の背を姉貴はそっと撫でてくれる。

「お腹すいたの?」

柔らかく鼓膜を擽る声音に、こくんと頷いた。すれば姉貴は「じゃあ、何たべたい?」と当たり前のように訊いて来た。

「肉」
「にく?」
「あと姉貴」
「カニバリズムっ!?」
「かはは、うっそー」
「人識くんが言うと冗談に聴こえん」
「褒めても何も出ないぜー、あ、ナイフはでる」
「っちょ、止めてよ」

「痛いのはいや」と苦笑する姉貴に、俺は笑った。知ってる、姉貴は痛いのが嫌い。痛いことは忌避する。痛いことは除外する。痛いことは無視する。そんな脆弱な姉貴が、俺は好きだ。

「なあ、肉。肉食いたい」
「うん、じゃあ焼肉丼でどう?」
「さいっこう」
「よし、じゃあリビング行こう」
「賛成、なあ姉貴」
「ん?」
「俺、話したいことあんだ」
「なに?」

「俺な、好きなヤツできた」

俺の言葉に歓喜した姉貴は、飯を作って直ぐに「どんな子?」と訊いてきた。とりあえず「変なヤツ」と答えれば「なにそれ」と姉貴は笑った。「そのうち紹介する」といえば若干顔を渋らせて「その子、普通の子」と訊いてきた。かはは、んなわけあるわけねえ。「殺し名ンヤツ」と俺が言えば「わたし殺されちゃわないかな」と真面目な顔で訊いてくる。「あいつ等は<殺し屋>だかんな、無意味な殺しは滅多にしねぇよ」それに、あいつ殺しは一日一時間とか意味わかんねぇルール設けてるし。そういえば姉貴は取り敢えず安心したのかほっと息をついた。

あー、俺さ、姉貴がオレオレ詐欺とかのカモにされそうで怖いわ。今のうちから対策ってことで、俺って人称変えとくかな。なんて考えてたら姉貴が俺の頭をくしゃりと撫でた。

「まあ、人識くんが惹かれた子だもんね」

そういって、姉貴は蕩けるようにった。

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