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とある弟子の思うところでは、


法師様のお弟子さんは、とても料理が上手だ。
修行したお寺で炊飯係だったことがあるようで、法師様に最初に認められたのは呪術よりもそちらが先だと教えてくれた。確かにお弟子さんの料理はどれもとってもおいしい、その中でもいくつかとても口に合うものがあって。そういった献立が並ぶ日は、いつも食事中につい顔が綻んでしまう。

「ですが、わたしの料理の腕など師に比べればまだまだ未熟です」
「そうなのですか、わたしは食べたことがなくて」
「え」
「え?」

お弟子さんが目を丸くしてこちらを見る。なにを驚いているのか分からなくて首を傾げれば、お弟子さんも困惑しているようで。ざく切りにした山菜をあっちにこっちに運びながら、言葉を選ぶようにして教えてくれた。

「あの、たまに師も自ら料理を作られるときがありまして」
「え、そうなんですか」
「はい。なので、姫様もお口にされたことがあるかと」

微笑み浮かべながら、弟子は____後に“裏梅”と名を改める弟子は思う。
例えば、師が食の細い姫様を憂いて、自ら献立や味付けを決めていたことがあったとか。食事を伴にするようになってからも、たまに自ら厨に立ち料理を作って…それを食べて姫様が嬉しそうに微笑むのを見て機嫌を良くしていることとか。

(言えば、わたしの頸が飛ぶな)

…師が、姫様と伴にする時以外に食している特別な膳がある。
裏梅は、その膳を拵える調理人でしかない。それだけは特別な才能があった、だから裏梅は師の弟子足りえたのだ。それ以外に理由はない、師にとって裏梅を生かしておく理由はそれだけ…だから、別に死んでも代えは利く。

所詮は料理の才、この国を探せば他に腕が立つものなど見つかろう。
だが姫様は違う。___姫様は、この世でただひとり。

代えなどがない尊きお人。あの方が唯一心砕き、その身を案じる人間。だから姫様には何も言わない、余分なことは一切教えない。それは師の組み上げた、姫様の安寧を脅かす毒であるから。

尊敬して止まない師が選んだ姫という理由もあるが、裏梅個人としてもそれなりに姫のことを好いていた。まあ、ちょっと目を放すとまっすぐ危険に突っ込んでいくという迷惑極まりない特技の持ち主ではあるが。…うん、ちょっとそれを考えると米神あたりがジクジクと痛む気がするので忘れよう。彼女は自分たちとは違う、呪いを視ることのできない細君であるのだから。



それから数年後、姫様が好機の瞳で師の腹にある複口に煮つけを与えている様子を見て。いや、この人実はかなり肝座っているのかも知れないと思う裏梅であった。

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