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両面宿儺と虎杖悠仁とカフェデート




食道楽。至って平凡なわたしの数少ない趣味、というやつだ。
昔から食べることが好きだった。暇があればアイフォンで食べログを漁り、1人でこそこそ出向いてはフォトジェニックな写真を撮る。そうして溜まっていく写真フォルダに一つの充実感を感じていた。

(…食べきれるかな、これ)

店員さんが運んできてくれたフレンチトーストは、メニューの写真の3倍くらいはありそうだ。う、うっ わたしは食道楽ではあるが、決していっぱい食べられる方ではないからして。でも残すなんてそんな、そんな…! 美味しいっパンがふわふわで、噛み締める度にじゅわりと甘いメープルシロップが染み出してくる。生クリームも甘さがひかえめ、バニラアイスクリームがとっても合う。

(だけど、もう食べられない…!)

かなり頑張った、頑張ったのだが残り5つほどがどうしても食べられない。がんばって切り分けてはみたが、それ以上にフォークが進まない。でも残すのは、店員さんとっても優しくしてくれたし。残すのは…うぐぐ。斯くなる上で、残された手段はひとつ。

「宿儺さん」

呼べば、正面のソファに座っていた人が気だるげにこちらを見る。

「あの、フレンチトースト」
「食えんのか」
「う、」
「ハアァーー…」

呆れた様なため息に、身が縮む。頼む前、ぼそりと宿儺さんに「食いきれるのか」と言われたのだ。恐らくその時、他のお客さんが頼んでいた同じ商品を見たのだろう。最初からわたしでは食べきれないだろうと分かっていたのだ。

だから俺が言っただろう、と訴えてくる視線が痛い。でも何時までもそうしている訳にもいかない、意を決してフレンチトーストをフォークにさして宿儺さんに差し出す。彼は一瞬驚いたように目を見開いて、それから___ソファに背を突いて身を乗り出し、大きな口でフレンチトーストにかぶりついた。

もぐもぐもぐ。ごくり。
「おいしいですか」と聞くと、「甘ったるい」と返事と吐き捨てるように返ってくる。

それでも気に入ったのか、彼はンと口を開いた。なので慌てて次のフレンチトーストを運ぶ、良かった。どうにかフレンチトーストを残さないで済みそうだ。それが嬉しくてニコニコしながらフレンチトーストを宿儺さんの口に運ぶ、それが傍からどう見えるかなんてその時のわたしには気にもならなかった。

「あ、宿儺さん 虎杖くんに戻ってください」
「ア゛ン?」

こわ。でも何度かお願いを繰り返すと、渋々と目を閉じる。
虎杖君が宿儺さんになっている時、複眼となり体中に入れ墨のようなものが浮かび上がる。外出時はとても目立つので、わたしに着いてくるという時は隠してもらうようにお願いしていた。

それが一瞬だけ浮かび上がり、肌色に溶けるようにして消える。複眼が傷跡に変われば、次に目を開いた時にいるのは…虎杖くんだ。

「ン あれ、変わった?」
「うん」
「いいの、デート中でしょ」

苦しそうに服の襟口を弄る虎杖くん。わたしと出かける時は、宿儺さんが自分で服を選んでいるようだから慣れないタイプの服が窮屈なのかもしれない。…あと、しれっとデートって言われた。わたし、その人のせいで数年後に知らない場所に封印(監禁)されることが決まったのだけれど。ああでも、虎杖くんも巻き込まれ仲間だからあまり強くは言えない。

「あのね、フレンチトースト美味しいよ。どうかな?」
「え、マジ 食べるたべる! いつも宿儺ばーっかうまそうなモン食ってるからさ、ずるって思ってたんだよね」
「食べかけでごめんね」
「俺あんまそういうの気にしないから、大丈夫」

その言に偽りはないらしく、わたしのフォークをためらいなく掴んでフレンチトーストを食べ始める。フォトジェニックな見た目より、解りやすい味と量!みたいな元気いっぱい男子高校生の食べ方にほっこりだ。わたしは一人っ子だけれど、弟がいたならこんな感じだったのだろうか。

「今度から虎杖くんも一緒に食べようね」
「そんな気にしなくていいって」
「あ、でもわたしが選んだお店だから、虎杖くんの口に合うか」
「いやいや、そうじゃなくってさ。ジャマじゃね、俺」
「…もう少ししたら、ずっと一緒になるかもしれないでしょう」

言葉を濁したが、その意味は伝わったらしい。虎杖くんはフォークを止めて、静かにわたしのことを見つめる。

「だから、もっと虎杖くんと仲良くなりたいと、思って」
「…ゆかりさん」
「な、なあに」

「…いや、呼んだだけ。うん、俺もゆかりさんと仲良くなりたい。どうせだからさ、封印されるときはファミコンとか持ってこうぜ。俺の給料でカセットもいっぱい買って、それで毎日一緒にゲームしよ!」

ニカッと笑う虎杖くんの表情は、とても明るいものに見える。ある日突然、数年後の死刑を宣言された子とは思えない。強い子なのだろう、優しい子なのだろう。だからこそ、こんな運命を突きつけられても決して逃げ出すことはない。…それがすべて、宿儺さんの所為だとしても。

「うん」

いまは笑って見せよう。わたしは、虎杖くんよりお姉さんなんだから。

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