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ラギーブッチに捕まるハッピービーンズデー




ハッピービーンズデーなんて無くなれば良いのに。

何が楽しくて全力鬼ごっこなんてしないといけないんだろう。しかもわたしは無力な農民(非武装)、ヒーヒー言いながら逃げ回ることしかできない。…ただ魔力があるだけの人間が、魔法禁止イベントでどうやって獣人や妖精とやりあえというのか。

草が生い茂る物陰を見つけて、いそいそと隠れる。漸く一息付けた。ドリブルのように跳ねている心臓を宥めながら、どうしようか考える。だが、それはすぐに聞こえてきた生徒の叫び声に霧散した。どうやら農民が怪物に捕まったようだ。ポップコーンが弾けるようなビーンズシューターの音も聞こえてくる。

(せ、戦場からは遠ざかりたい…)

そっとバレないように移動すべく息を潜める。まだ見つかっていない自信があった、逃げ切れる確信があった。だから耳元で聞こえた声に、すぐに反応ができなかった。

「どこに行くんスか、おマヌケさん」
「!!!?」

「シシッ」

楽しそうな笑い声は特徴的で、ひどく聞き覚えがあった。振り返る前に、腰にぐるんっと何かが回る。それは勢いよくわたしの体を吊り上げ、…そのまま宙へと放り投げた。

「つーかまえた!隠れ方が甘々ッスね。あんなの俺達獣人からしてみれば捕まえてくださいって言ってるようなもんっス」
「___」
「…って、あれ? おーい、生きてるっスか?」

死んでます。頭の中で、知らないお坊さんがお鈴を鳴らす。問1、いきなり宙に放り出されてそのまま一回転させられた時の気持ちを述べよ。注意、ただし一回転させられたのは一般的人間とする。

思い出して、じわりと涙が込み出てきた。足がガクガク震えていてとても歩ける気がしない。

「 シ 死ぬかと思った…」
「んな大げさな」

凄く怖い思いをしたというのに、仕掛けてきた本人が悪びれもないから困る。ぎゅうううううと力いっぱい彼の…ラギー(有罪)の運動着を握り締めれば「伸びるっ伸びるから! 俺が悪かったから!」と漸く謝罪を口にした。その位じゃ許されないが。

「うっ うっ 怖かった… 心臓止まった」
「じゃあ、いま俺が話してるのはゴーストっすね」

運動着の代わりにラギーに思い切り抱き着く。彼は木の枝に腰掛けながらも、器用にわたしの体を抱いていた。ぽんぽんと一定のリズムで背を叩く様は慣れていて、まるで子供に戻ったようだ。

「ぐすっ なにが、 なにがどうなってここに…」
「ん? 木の上で様子見してたらミワが来たから…こう、木の枝に足ひっかけて後ろから捕まえて」
「…」
「そのまま引っ張り上げただけッスよ」
「わたし獣人と一緒に生きていける気がしない…」
「えっ なんすか唐突に」

マジフトの部活練習の時も思うけど、ラギーって身軽だよね、うん。サバナクローの人たちみんな筋肉レスラーみたいだから気づきにくいけど結構力持ちでビックリする。そんな会話をしていたら少し落ち着いてきた。

「あれ、ラギーは怪物チームじゃなかったっけ?」
「そうっスよ」
「…あれ、わたし捕まった あれ?」
「気づくのおっそー…」

あ、あれ…? 去年はそれでも結構生き残ったんだけどなあ

「ってことは、加点はなし…か、ラギーの所為だ」
「これはそういうイベントだから恨みっこなしでしょ」
「尻尾振ってるのむかつく」
「シシッ あ、ちょっと掴むなら優しく!」

手を回して楽しそうにふりふりしている尻尾を掴んでやる。付け根が弱いことは知っている!わたしのネコちゃんもうっとりするテクで仕返ししてやろうと思ったが。「ほら、もう下りるっスよ!」というラギーの声に遮られ、渋々彼の首に腕を回した。ぎゅっと抱き着いたのを確かめて、ラギーの腕がおしりの下に回った。次の瞬間には、景色がするりと降下する。

「  っと、はい。どうぞ、」
「相変わらず凄い身軽だね、重かったでしょ? ごめんね」

ラギーの手を借りて地面に降りる。少し感覚がふわふわして落ち着かない。

「この位は重いうちに入らないっすよ、俺のホリデーの荷物知ってるっしょ?」
「ん」

ほつれた髪を撫でた手が、そのまま前髪をかき分け額にキスが落とされる。そのまま離れることなく、「ミワ」と水色の瞳を催促するように眇める。少しの恥ずかしさを振り切って、屈んでくれたラギーの頬に親愛のキスを返す。すれば、すぐに垂れ目が弧を描いて、へなりと子供のように笑ってくれた。その顔がとても好きだ。

「んじゃ、俺はレオナさんでも探しにいきますかね」
「お世話頑張ってねー」
「シシシッ きっちり見返りもらわねぇと」

悪い顔をして揚々とラギーは森の中に戻っていた。わたしは大人しく帰ろう、さて今回はどちらのチームが勝つだろうか。

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