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ラギーブッチと一緒に家族へのお土産を選ぶ


「  くっ シュン!」

我慢しようとおもったがダメだった。
すんっと鼻を煤って残りの薪をくべる。暖炉の炎がくべた先から薪を呑み込んで、パチパチと爆ぜる音がする。まどろんでいた火の妖精が目覚めて頭振った。薄羽が暖炉のオレンジに反射して万華鏡を覗き込んでいるようだ。ぼんやりと見惚れていると、とんと後ろ頭を小突かれた。

「あんまり覗き込んでると、ヤケドするっすよ」
「ラギーくん」
「はい、どいたどいた〜」

避けていたガードが間に差し込まれる。慌てて立ち上がると、冷たい空気が首筋を撫でた。無意識に腕を摩っていると、「すぐ温かくなるっすよ」とラギーが笑う。

「なんなら、サバナクロー寮に来るっすか?」
「ううん、いい」

立ち上がったラギーのブレザーの裾を掴みながら、首を振る。ぼさぼさになった髪をあーあと笑いながらラギーくんが戻してくれた。…サバナクロー寮は魅力的だが、あそこには何様俺様レオナ様がいる。せっかくの2人だけの時間、貴重なラギーくんのバイト休みの日なのだ!

(ジャマされたくないもん)

それに、レオナ先輩とわたしだと、わたしの方がラギーくんの中の優先度低い気がするし。

「それで、今日はどうします? 購買部で新作のケーキが出たって宣伝してたっすね…食べに行ってみるっすか」
「気になる! …けど、実はちょっと付き合ってほしいことがあって」
「ミィからそういうのは珍しいっすね、もちろんいいっすよ」

許可が下りたので、わたしは長椅子に置いてあったカバンを手に取って外へと誘った。学園の3階、人気の少ない廊下を抜けた先に休憩スペースがある。以前、先生に教えてもらった穴場スポットだ。石造りですこしヒンヤリしている長椅子に座り、例のものをカバンから取り出した。

「雑誌、っすか? 通販に、雑貨…」
「お母さんから、カルフォルニアのお土産が欲しいって連絡がきたの。でもどれが良いかわからなくて」
「ミィのお袋さんっていうと、確かナイトレイブンカレッジのことは知らない非魔法世界の人間っすよね」

悲しいながら、わたしの世界は…魔法が衰退して久しい“元”魔法世界となる。わたしが一世紀ぶりの魔法士だというのだから、その衝撃は計り知れない。だか家族が「わたしは魔法使いだったんだよ!」と言っても信じるわけもなく、今も“普通”の海外の学校に留学していると思っているのだ。

「カルフォルニアかあ…そっちの世界には行った事ないっすけど、随分と都会っすね」
「わたしも行った事ないの、飛行機の扉と闇の鏡がくっついてるから」
「なるほど、行った事ない場所のお土産選び…そりゃ、何にすれば良いか迷うわ」
「魔法のこと信じてくれてたなら、面白いお土産購買部にいっぱいあるんだけどね」

それにこうして悩むこともしないで済んだのだが。思わずため息がこぼれる、するととんとテーブルを叩く指が見た。顔をあげると、ラギーのとろんとした目と視線が重なる。口元から八重歯を覗かせて「笑って」と太陽みたいに笑うから、気づいたらわたしも笑っていた。彼は魔力を必要としない、特別な魔法が使えるみたいだ。

「んー… 地元のものってことにして、魔法世界(こっち)のものに見えない土産って選択肢もあるっすね」
「ラベルとかでバレちゃうかな、って」
「俺の国じゃ、そんなの貼ってない商品の方が多いっすよ」

ラギーくんの国は、夕焼けの草原…レオナ先輩のお兄さんが王として座している国だ。ラギーくんはそこの…スラム街の出身だという。一度見てみたいと思うのだが、彼がどんな反応をするのか分からなくて言えずにいる。ジャックくんに見せてもらった写真は、アフリカの光景に少し似ていたようにも思う。

「レオナさんに贈られてくるネックレスとか香水にはタグとかラベル着いてないっす」
「ネックレス…あ、ラギーくんたちがつけてるアクセサリーあるよね。お揃いのやつ」
「ああ、あれは自然を表してるんっすよ、太陽の赤、空の青って」
「へー!」
「欲しいなら、オレのやつ一つあげようか」
「いいいいい いい 大丈夫」
「そんな全力で断らなくても… ほんとうは欲しくてしょうがないって顔に書いてあるっすよ」

にまあと、ラギーくんの目元が意地悪な弧を描く。思わずバッと雑誌で顔を隠すと、シシシッと笑い声が聞こえた。きっと彼の尾は、楽しそうに揺れているに違いない。

「でもお土産にしては、ちょっと民芸品すぎるかな 織物とかの方が無難っすね」
「さっき言ってた香水っていうのも気になるのだけど、た、高いのかな…?」
「そりゃあ、あのレオナさんへの贈り物っすから。 ちょっとドン引きするぐらいの値段しそう」

それはむりだあ。…最近、去年オープンしたオクタヴィネル寮のモストロ・ラウンジでバイトをしているのだが。そのバイト代ではきっとゼロが足りないだろう。

「あ、香水っていえば、ミィあの人に聞いてみるのはどうっすか?」
「あのひと?」
「そういうことに詳しそうな先輩がいるじゃないっすか、ポムフィオーレに」
「ヴィル先輩のこと? …あ、そっか」

一年生のころ、二年生との合同授業でペアになって以来、交流のあるヴィル先輩。寮長になった今でも、かの先輩との交流は細やかに続いていた。

「うん、うん、そうだね。聞いてみる、ありがとうラギーくん」
「いや結局オレなんもしてねぇし、大げさだなあ」
「こういうの男の子あまり楽しくないでしょ…でも相談乗ってくれたから、それだけでも十分嬉しいの」

感謝の気持ちを伝えたくて言葉にするが、どうにも足りない。伝われ、伝われと思って見つめると、ラギーくんの耳がぴこぴこと動いた。かわいい。思わずそちらに見入っていると、口元を隠した手のひらの隙間から小さな笑い声がこぼれてきた。揶揄われている、気づいた時には遅くてぼんと顔が赤くなる。

「…いつか、オレも行ってみたいっすね ミワの故郷に」
(わたしも…いつか行ってみたい)

_____大好きな、に。

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