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渦巻ナルトが恋しいと泣いている


何もいらないと思っていた、
だって手に入れたものは何時も、この指をすり抜けて塵塵になってしまうから。


自らの生を嘆いたことはない。先代の子としての人柱の役割、九尾の器としての報いを受ける役割、その全てを不幸と嘆いたことはない。だってそうだろう、これは必然だ。もし何かが悪いというのなら、それはきっと俺自身。全部俺が悪いんだ、こんな風に生まれた俺が悪い、だから仕方がないことなんだ_____ずっとそう思っていた。

「……」
「こんにちは」

そう思い続けることに意味なんてなかった。
でも殴られて血塗れな俺に、馬鹿みたいに笑いかけるナズナを見てどうしてこんな風に生まれてしまったのか、疑問に思った。それはきっと、こうでなければ俺が___俺として生まれてさえいなければ、もっとナズナと“ちがうかたち”になれたのではないのだろうか。

ナズナは普通の子どもだった。
忍とは関係ない一般家庭に生まれた、ただの女の子。里の外から来た商家の娘、俺と同い歳で得意な事と言えば道に迷わないこと位の凡庸な___、

俺とは、なにもかも違う。
違い過ぎて、近づき過ぎれば…俺はナズナの害になる。花が綻ぶようなその人を、手折ってしまう害悪だ。

(生まれたくて___)

生まれて来たわけじゃない。

(望んで_____)

人柱になったわけじゃない。

すべて、仕方のない定めだった。俺に、どうすることなんてできなかった。___できなかったんだよ、なあナズナ。

俺は、ナズナの傍にいられない。俺として、居ることは許されない。なら、俺は俺以外の誰かにならければならない。____そして、誰より強くならなければならない。誰にも気づかれず、誰にも悟られず、ナズナの…ナズナを守れるように(傍にいられるように)、




そうして血と汚泥に塗れて手にした力は、他の追従を許さず。俺に比類なき地位と権力を与えてくれた。ご意見番の意向の下、表舞台では無害に振舞い。裏部隊…暗殺戦術特殊部隊に属し、不可能と判断された任務を忠実に熟した。俺を暗部に招いたのは保護役である火影その人であり、あの人なりに俺を守ろうとした結果であるのだろう。

そうして俺は「渦巻ナルト」ではなく、暗部の「アヤメ」として実績と信用を勝ち得た。
暗部と言う徹底された秘密主義集団にあって、実績とは尊厳であり。信用とは従属である。火影の名の下に一律である暗部に、アヤメの名の下、ヒエラルキーが築かれたのは必然ともいえる。何時しか俺は「隊長」と呼ばれ、その正体を秘匿したまま里最高峰の私兵を抱えるまでとなった。






「ナルト、どうしたの」

穏やかな声に顔をあげると、ナズナが不思議そうにこちらを覗きこんでいた。日の光を背にしているが、月明かりのない夜を狩場とする目には、しっかりとその柔らかな顔が見える。暫くそうしていると、ナズナの顔が心配そうに歪み、ぱっと明るんだと思えばじっと考え込んで…そうしておそるおそるきいて来た。

「どっかいたい? またケガしたの?」
「…してないってばよ」

証拠というように両足を上げて反動で立ち上がって見せれば、「おお」とナズナがぺちぺちと拍手する。

「すごいねえ、さすが忍者」
「ナズナの忍のハードルは低すぎるってばよ」
「そうかな」
「あと、俺はまだアカデミーの生徒。忍になれるのはアカデミーを卒業できたらだってばよ! まあ、俺みたいな落ちこぼれが卒業なんてできっこないけどよ」

「ナルトは落ちこぼれじゃないよ」

真っ直ぐに、いうから。息をするのを忘れてしまいそうだった。笑って、まるで慰める様に俺の髪を梳くその手に、心が悲鳴をあげる。ああ、ああ、どうして俺なんだ。どうしてお前はそんなに俺に優しくするんだ。彼女の優しさはどこまでも透き通っていて、眩しくて。俺なんかに向けられていいものではない。

俺は闇そのもの、この里を巣食う化物。
腹に抱えた卑しい獣が、光が邪魔だと暴れ狂う。目の前の小さな光を潰してしまえと叫ぶ。止めろ、俺はそんなことのために“強く”なったんじゃない!!!

(傍に、  いたいだけ なのに)
「…ナルト?」

それだけのことが、これほどまでに難しい。これほどまでに…辛い。

声もなく蹲ってしまった俺に、ナズナは何も言わずに傍にいてくれる。その優しさが苦しくて、俺は息を止めて死んでしまいたくなる。



これ以上、君を思いたくない


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