OTHER JUMP | ナノ

イルミ・ゾルディックの息子は反抗期らしい


※子ども名固定


「かあさんたすけて!」
「おう」

後ろからぶつかってきた重石に、しばしデジャヴュした。あ、これ昔にも感じたことがあるような。ちらりと後ろを見ると、ふわふわの銀髪団子が足に纏わりついている。ふるふる小刻みに震えるそれに大体のことは想像が着いた。思わずにやけてしまう口元をきゅっと伸ばして、わたしは最後のお皿を水で流した。

「はい、お皿洗い終了―。あーつかれた、」
「…」
「…で、いったい君はどうしちゃったのかな。タルト」

タルト。
そう呼んだ銀髪の子どもは、涙と鼻水でぐしょぐしょの顔をあげると、ずずっと鼻をすすった。情けないその顔に苦笑して両手を伸ばしてあげる。すぐさま飛んできた体は、昨日より重く感じた。

「どうせまた、余分なこと言ってお父さんを怒らせたんでしょう? 自業自得じゃない」
「だ、だからってあんななげぇ針!自分の子どもにぶっさそうとするか!?頭おかしーんじゃねーの!!」
「んー…そこはお母さんも否定できないわ」

ダイニングのソファに座り、適当に引き抜いたティッシュを押し付ける。勢いよく鼻をかむタルト。その間に、訓練で砂埃塗れの髪を優しく梳いてやる。

「父ちゃんはおれのことなんて嫌いなんだ…だから、あんなふうにするんだ」
「まさか。それはないわ」
「なんでだよ!」

胸にもたれてぐずぐずしだすタルトに言うと、かっと目を見開いて怒られた。え、なんで怒られてるんだわたし。わたしが悪いのか。

「だってね、タルトが産まれた時さ…お父さん嬉しくてえんえん泣いちゃったんだよ」
「うそだ!あのレイテツノーメンが泣くはずない!」
「まあ難しい横文字覚えたわね。きっとキルアかミルキが犯人ねーお母さんチクっちゃうぞー」

どうやら母親の勘があたったらしい。止めてと汗ダラダラで縋ってくるタルトにアハハハと適当に笑って返した。弱み一個ゲットだぜ。

「んー…でもこれはほんと。嬉しくて嬉しくてしかたないから、タルトのことつい厳しくしちゃうのね」
「そんな愛情いらねーよ」
「ふふ、でも強くなるためには必要なことよ。立派なゾルディック家の当主になるのでしょう?」

髪を掻き上げ、こつんと額を合わせてやる。
すると、タルトがぴくんと肩を震わせた後、悔しそうにこちらを睨んで来た。おうおう、かわいいのう。

「___なる。父ちゃんより立派になアンサツシャなってぎゃふんと言わせてやるんだ!」
「おー!その粋だぞ少年、大志を抱けー!」
「それてキルアにーちゃんと年寄イビリするんだ!」

キルア、恐ろしい子…!

よほど小さい時に兄にやられたアレやコレやを怨んでいるらしい、義弟を思った。偶にふらって来てはタルトに余分なこと教えてくなーあの子。まあいいけど。

「よしっじゃあ特訓再開。がんばってらっしゃい!」
「おう!」
「今日はタルトが好きなビーフシチューだからね」
「びーふしちゅー!?まじで!?」
「おうマジまじ。だから頑張れ!」
「おう!」

ちゅっと互いの頬に親愛のキスを贈り、ばたばたと駆けて行くタルトを見送る。

(まったく、あの子は…)

何もかもが不器用過ぎたのだ。

愛し方を間違えて、それでも愛し方を手探りで探して、不器用にも伝えようとするイルミ。
それをまっすぐに全部受け止めすぎて、何がなにであるのか解らなくなっているタルト。

あったくもっていじらしいではないか。流石、親子というべきか。

くすくすと笑っていると、ふいに首のあたりにひんやりとした空気が流れて来た。頭がそれを認識するより先に、身体がその温度を受け入れる。硬くなるのではなく解かれる筋肉に、わたしはその正体を悟った。

「なに笑ってるの、まち?」
「ふふ…親子だなーって思ったの」

掌に触れる皮膚は鋼のよう。でも落ちてくる黒髪はまるで絹のように柔らかい。

「どうしてここにいるの、タルトいちゃったわよ」
「んー…まあ、俺を見つけるのも特訓だよね。タルトはまだまだ甘いな」
「あんまり厳しくするとまだ泣いて逃げられちゃうわよ」
「次は逃がさないよ」

あーもう、そんなんだからダメなのよ。相変わらず粘着質なマイペースめ。

ちらりと見上げると、猫のような目が見降ろしてきた。結婚しても何一つ変わらない能面に、タルトの言うことも一理あると笑う。

「こんな顔していちゃあ、タルトも信じられないわよね」
「? なんのこと」

ゆるりと頬に触れると、イルミが掌を重ねてくれた。あ、ちょっと冷たい。

「タルトが生まれた時のことよ。貴方、ぼろぼろ涙流して泣いていたじゃない」
「え…そうだっけ」
「そうよ。あんなふうに泣くの初めて見たから覚えてる。見間違いもあり得ないわ」

クスクス笑うと、イルミがすりすりとわたしの手を自分の頬に擦り付けた。自動頬擦り?相変わらず意味がわからないなあ。

「だってさ、ほんとに驚いたんだよ。俺、」
「?」
「…最初、まちが浮気したと思った」
「…ちなみにきくけど誰と?」
「……親父か、キル」

その場合、お義母様かイルミに殺されるな。主にわたしが。
死亡ルートしかない選択肢になんともいえない顔をしていると、タンとイルミがソファを乗り越えて来た。そうしてぽすんと隣に落ち着く姿は簡素なトレーニング服を纏っていた。…かつて、この家の当主が着ていた服に良く似ている。

「だってそうでしょ。正直、いまでも疑ってるけどね。俺、」
「ひどいわあ」
「いやにキルがタルトに絡むし。自分の子どもなら納得、」
「流石のわたしも怒るわよ?」

「え、怒るの?それは嫌だな、ごめんね」

あっさり謝ってくるイルミに肩をすくめて見せると、僅かに目が眇められた。そうして自然と、ずるずると凭れてくる身体を、わたしは当然のごとく受け入れた。

「……俺も、ゾルディックの血が流れてるんだって。実感した、」
「そう。わたしは前から知ってたけど」
「一言余分だな、まちは。そういうところ、タルトにそっくりだよね」
「タルトが似たのよ。そういうなら、一度機嫌損ねるとずーっと後まで覚えてるしつこさはイルミ譲りね」
「あれ?俺いま貶されている?」

「落ち込むなー」と抑揚のない声でいうイルミの頭をぽんぽんと叩いて誤魔化す。こいつもこいつで機嫌を損ねると面倒なのだ。

「…いつ、気づくかしらね」
「なにが?」
「あの子に込められた、沢山の愛情に」










「___タルト、」

腕に銀の子を抱いて、泣いていた男が言った。
表情一つ変えずに、子どものように大粒の涙を流しながら言ったのだ。

「名前はタルト。………カルタの次だから、」

次の、ゾルディック家の“子ども”だから。





「イルミも…大概よね」
「なに」
「弟妹好き。お家も大好きよね。焼けちゃうわー」

ぼすりと寄りかかって言うと、イルミはこてんと小首を傾げて当たり前のように言った。

「そうだよ。だから、まちをこの家にいれたんじゃないか」

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