OTHER JUMP | ナノ

逃走中のクロロ・ルシルフルに絡まれる


「おい」

ある日の昼下がり、唐突に声を掛けられた。
呼んでいた本から顔を上げるともの凄い勢いの風が吹いて私の髪を浚っていく。何かと顔を顰めて髪を撫でつけるのと、今度は逆向きに吹き抜けた強風に私の腰が浚われるのは同時だった。

「!!?」
「口を閉じろ」

耳元で聞こえた声に私は咄嗟に上げかけた悲鳴を飲み込んだ。気づけば視界は活字ではなく真っ青な青空でいっぱいだった。私の腰をがっしり掴んで離さない細腕に、尾行を擽る洒落た香水の匂いに私はぼんやりと頭に浮かんだ人の名前を呟く。

「クロロ…?」
「なんだ、舌を噛んでも責任は取らないからな」

私の呟きに答えながら、私を誘拐した風…クロロは、走りにくそうな革靴でタンと煉瓦屋根に着地する。そしてまた考えられない様なスピードで走り出す、

「なんで走ってるんですか?」
「お前の目は飾りか、後ろを見て見ろ」
「……熊っぽい人と鷹っぽい人が凄い形相で追いかけて来ていますね」
「当たらずも遠からずだな、残念だが奴らは人間だ。まち、」
「見れば解ります、で、私はなんでこんなことに?私をクロロの愛憎劇に巻き込まないで下さい、」
「別に愛憎と言う程のものではないさ。奴らはブラックリストハンターだ」
「シェイクスピアもがっかりですね」
「おい、本を読むな」

クロロの片腕荷物の様に抱えられながらぱらりと本を開く私に呆れたように言った。だけどそんなことどうでも良いことだ、私は今本が読みたい。

「落とすぞ」
「自分で拾って置いて捨てるなんて酷い人ですね。まあ私は何の取り柄もない一般人なので、そうなったらあっさりぽっくり逝きますよ」
「便利だな」

トーンと、クロロが人間とは思えない跳躍力を持って屋根から屋根へと飛び移った。その間も私は本を読み続ける。腕一本だが、考えられない程の安定感があるので私に「落とされるかも」という不安は微塵も無かった。

「…そんな私が、なぜこんなことに」
「偶然だ」

物憂げな溜息と共に漏らした言葉に、クロロはしれっと答えた。

「偶々見つけてな。用があったからついでに連れて来た」
「…」

この広い街で、私の様な人間一人見つけるなんて偶然あるのだろうか。
まして彼の様な世界中を自由気ままに渡り歩いているような人相手に“偶然”なんて言葉あってない様なものじゃないか。

「…早く片付けて下さいね、身に覚えのない罪で指名手配されるのは御免です」

色んな言葉を押し込めた言葉に、クロロは「違いない」と小さく笑った。

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