中学生の遊城十代を甘やかす
「まちはどうしてDMやらないんだ?」
さもそれが当然のように十代は言う。
アポイントメントもなく訪れて、無遠慮に人のベッドの上に乗り上がるだけでは飽き足らず。愛用のデッキを広げてなにやら始めている彼に、わたしはほとほと呆れて溜息をついた。
「さも当然みたいに言わないで」
「? だってデッキ持ってるだろ」
「デッキないと住民登録すらしてもらえない頭のおかしい街に生まれてしまったんでね」
「たまにはデュエルしてやらないと、カードのモンスターたちも退屈しちまうぜ」
「機械で大量生産されているうすっぺらいゲームカードになにを って、ちょっと!」
「はいはい、そういう御託はいいから! デュエルしようぜ!」
「宿題中だバカ!」
何時の間にか後ろまで迫っていた十代に広げていた教科書を奪われた。悲しきかな、十代の方が背が高く伸ばした手は宙をかく。悔しくてきっと睨めば、にししと笑った十代がぺらっと教科書を見ていう。
「数学かー、まちの苦手科目だな」
「うっさい! だから宿題に時間かかるの、返してよ!」
「んーー… じゃあ、俺とデュエルしてくれたら教えてやるよ」
その言葉にぴくりと反応してしまったのが悪い。にやあと笑みを深める十代に、わたしの顔は強張るばかりだ。このデュエルバカ、幼少期からカードゲームにのめり込んでいたせいで暗算だけはやたらと早い。そして数字に滅法強かった。
「…はーーーーーーーー」
「よっしゃ!」
「まだやるなんていってない」
「机ひろげよーぜ!」
(話聞いてない…)
ばたばたと勝手に(人の)クッションを蹴とばし、折りたたみ机を広げる十代。その横顔はとてもいきいきとしたもので、わたしはそれ以上ぐうの音も出なかった。だから、親に「なんだかんだいってアンタは十代くんに甘い」と笑われるのだ。ちがう、わたしは断じてこいつに甘いわけじゃない!
「まちはやく、はーやーくー! デュエルスタンバイ!」
「はいはい… わたしなんてザコ相手にしてなにが楽しんだか…」
「まちとして楽しくないことなんてねぇよ」
その言葉に、デッキケースがごとんと落ちた。十代が「なにやってんだよー」と四つん這いでそれを拾うが、わたしはそれどころじゃない。無性にやるせなくて、近くにあったクッションで思い切り十代の頭を叩いた。
「なんだよ!」
「なんでもないよバカ!!!」