OTHER JUMP | ナノ

任務帰りの兄弟子を甘やかす


「では、行ってまいります! まち姉さん」
「はい、行ってらっしゃい いっぱい首級をあげてくるんだよ〜」

なんて戦国時代みたいな口上で弟弟子を見送って数日。鎹鴉に命じられて駐屯所周辺の鬼狩りをして戻ると、兄弟子の鎹鴉が「まち まちハドコジャ…」とぽてぽて歩いてきた。

「おじいちゃーん わたしはここだよ」
「指令…ジャ」
「ありがと、ささちょっとお休みして」

指令ではなく、兄弟子からの手紙だった。座布団の上におじいちゃんを置けば、わたしの鎹鴉が「ジーチャン、飯クッタカ?」と世話を焼いている。まるでわたしと兄弟子みたいだ!ほこほこしながら手紙を開くと、流麗な手跡で、「明日、帰還する」とだけ記されていた。

(長期任務漸く終わったのか、今回はもしかしたら下弦の鬼かもしれないって他の柱と仕事に向かわれたはずだから… きっとすごい疲れてるだろうなあ)

兄弟子はいつでもディスコミュケーションだが、本人はあれでも頑張っているつもりなので許してあげてほしい。一人の時より、複数人で組む仕事の時の方が何倍も疲れた様子で戻るのは、普段使わない気を一生懸命配っているからだろう。まあ、兄弟子なりにと前置きがつくが。

「おかえりなさい兄弟子、お勤めご苦労様です」
「… … …」

足音が聞こえたので玄関まで迎えに行けば、半分…いや八割はもう眠りの世界に入ってそうな兄弟子がこくりと頷いた。ありゃま、これはお休み三秒。

「本日は非番ですか?」
「…」
「じゃあ、衣装を整えて先に眠りますか? あ、湯は頂いてきたのですね」
「…」

こくこくと頷くが、それが船を漕いでいるのか返事をしているのかは怪しいところだ。手を引っ張って上がり框に座らせる、ぺちぺち兄弟子の頭を叩いてみるが反応がない。仕方ないので勝手に脚絆と草履を脱がしてしまう。

「ほら兄弟子、お部屋までいきますよ。キリキリ歩いてくださいな」
「む…」

ふらふらする背中を押して、なんとか部屋に連れ込むことができた。部屋の中心で寝落ちしそうな兄弟子の羽織をさっさと奪う。衣紋掛けにかけて、タンスから長衣と帯を取り出す。今にも寝てしまいそうな兄弟子から隊服を脱がして、さっさと長衣を着せてしまう。良いですよと、肩を叩けばするすると畳の上に胡坐をかく。肩に羽織をかけ、きつく結ばれた紙紐を解いて櫛で梳かす。すると頭を触られて気持ちが良いのか、がくんと頭が揺れ始めた。こりゃ駄目だ、さっさと布団を敷いてしまおう。そう思った矢先、「まち」とぼそりと呼ばれる。何かと大きな背中を見れば、くるりと兄弟子が振り向いて、そのままぐいと体を押された。なんだなんだ。自分とわたしの間に隙間をつくると、そのままごろんと畳の上…わたしの膝に頭を置いて転がった。

( ! 膝が圧死する予感を察知____!)

はっとした時には遅い、膝の上からひゅうという呼吸音。む、全集中の呼吸・常中。わたしこれ上手くできないんだよねえ。って、そんな場合じゃない、すでに膝がつらい…!痺れる、これ絶対痺れるやつ!だが、疲れがピークに達している兄弟子を無碍にすることもできず、とりあえず羽織をきちんとかけてやり、風邪をひかないように整えてやる。ふっ…不甲斐ない妹弟子にできることなんてこれくらいよ。

すると、兄弟子がもぞもぞと動きだす。そうして寝心地が良い場所を見つけると、そのまま穏やかな顔でまた眠りの世界に旅立たれた。兄弟子は…兄弟子なのだが、時たまこういうところが弟を彷彿とされる。そういえば、兄弟子には姉がいると聞いたことがある。姉は祝言の日に鬼に襲われたが、鬼殺隊のおかげで救われたと。その後は無事に、好い人に嫁いだらしい。二人は天涯孤独の身の上だったため、それを機に兄弟子は鬼殺の剣士となる道を進み始めたらしい。…同じように、誰かの大事な人を守れるようにと。

(素敵なことじゃないか)

兄弟子といい、弟弟子といい、神様というのは本当によく見ていらっしゃる。志し高く高潔な人間には、きちんと機会を与えてくれる。

(ふむ… もうそろそろ兄弟子も良いお歳、早く好い人を見つけてくださると良いのだけど)

鬼殺隊の隊員は、決してその任に長く就かない。日々肉薄する鬼との対決は、それだけで肉体と精神を削るのだ。人間は些細な怪我で命を亡くすことだってある。奴らと鍔競りができる自分の限界・力量が、だれしもいつも隣で秤にかけている。人間の最も優れたる期間は短く、そして老いたるは一瞬なのだ。

長くとも三十までが、鬼殺の限界であるといわれている。兄弟子は今年で二十二、そろそろ将来を考えても良いころだろう。

(女の鬼殺はもっと限界が早いときく。 わたしもいつまでも兄弟子の世話を焼けるわけでもないし、どこかでケジメをつけないとなんだろうなあ)

だがもうしばらくは、このままでも良いと思う。____それはきっと、わたしがこの場所が大好きで、いまがとても幸せだからなのだろう。





「ただいま戻りましたー! …ん?」

夕暮れ時に戻るが、出迎えてくれる姉弟子の…まちの姿がない。今日は昼から駐屯所待機だから夕餉を作って待っていると手紙が来たのだが。緊急の呼び出しでもあったのだろうか、不思議に思いながらも框に上がり、くんと匂いをたどる。うん、まちの匂いがする、それに…義勇さんの匂いも。

(奥の部屋… 義勇さんの部屋からだな、)

何か重要な話をしているのかもしれない、邪魔するのもどうかと考えていると襖の方が開いた。そこから現れた義勇の姿に、炭治郎はぱっと顔を明るめる。

「義勇さん、ただいま任務から戻りました!」
「…ああ、」
「あのまち姉さんの姿が見えないのですが」
「わかっている」

「?」

意図をくみ取りにくい返答に首を傾げる。だが、義勇の匂いは穏やかで怒っている様子はない。ずれている羽織を戻し、とんと襖を閉じてしまった。その奥では、すっかりと義勇と眠りこけてしまったまちが、未だ柔らかくも甘い夢の中にいた。

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