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練紅炎と流刑になる


煌国の孤島と言う場所が、新しい住処として与えられて暫く。

幸か不幸か、新皇帝・白龍の配慮により、流刑・幽閉とされた元煌家の皇子たちの傍には、彼らを慕う兵が宛がわれた。心安くとまではいかないが、使命を与えられた兵としての厳しさと、王族たちへの尊敬と敬意を持って接してくれる彼らの傍は、居心地が悪くない。___本当に幸か不幸か、いやこの現状は決して良いものではないのだけれど。

(…不思議、)

愛する夫が、生きて戻って来てくれたとき、わたしは初めて人生の幸福に涙したのだ。


「鮮花、茶」
「……」

ひくりと笑顔が引き攣るのがわかった。
だが、目の前の男はそんなわたしに目もくれず読書に耽っている。その様子に思わず上がった拳に、見張りの兵士が必死に首を縦に振った。やめてやめていけないいけない!と訴えてくるそれに、わたしは溜息をもって答えた。後宮のそれとは比べ物にならないゴミのような茶器を取り出し、香りもなにも飛んでいる茶葉を湯で開く。そうして出来上がった茶は、やはり味気ない酷いもので。王族として…国一番の富と財を欲しいがままにしていた者にとって、まさに屈辱の味といったところか。

「どうぞ」

___だが、目の前の男は…紅炎は、気にした様子もなく片手で茶器を手にくいと煽った。そして一息に空にすると、すぐに読書へと戻る。一切の礼の言葉はない。鮮花は黙って二杯目の茶を淹れた。

「…本当に、あなたはどこにいても変わりませんね」

はあああああと、重い溜息とともに吐き出した独り言は、それでも紅炎の目を奪う程度ではあったらしい。

「なんだ、その言い草は」
「別に、思ったことを口にしただけです」

呆れ半分に、自分の茶器を煽ればこけしのような顔が少しだけ目を眇めた。

「思ったことを? 異なことを言う、後宮では何時も黙って俺の言うことに頷くばかりだった」
「それはそれ、これはこれです。今は立場も、場所も違います」
「? 皇子じゃなくなっただけだろ」
「あと手足が使えなくなりましたね!!!ほんとにそれだけですよ!!!!」

まるで天気の話をする様に阿呆なことを言う紅炎に、思わず感情が高ぶった。思い切り茶器を叩きつける様におけば、兵士が「鮮花様っお気を沈めてくださいっ」「暴れないで落ち着いて」と顔を青くした。___彼らとしても、かつての最高権威者の正妃を力で押さえつけるのは気が引けるらしい。

目の前の男よりよほど紳士的なその対応に少しだけ荒れた心が戻ってくる。ふうとため息をついて、額に付いた髪を払おうとすると、その手を大きな手が遮った。

「…紅炎さま?」
「…」

紅炎の…唯一人の色を保ったままの手が、そっと額を撫でた。この孤島に美容具などなく、罪人に十分な生活品は与えられない。肌は荒れているし、髪はパサついているはずだ。後宮に居たころのそれでも整っていた体裁は、今や鮮花のどこにも見受けられない。なのに、…その手は、今まで一等、鮮花を慈しんでいるように思えた。

「…つらいか?」_______赤い瞳が、そう言っているような気がした。

「……異なことを、」

気づいたらふと笑っていた。それに僅かだけ紅炎が驚いて見せる。それがなぜかとても面白くて、鮮花はくすくすと笑って、頬を明るめた。

「わたしは何時でも、あなたの傍で頷いているだけなのでしょう?」

皮肉交じりの言葉に、紅炎は目を丸くした。だがすぐに「ああ、そうだった」と捨てるように言って、読書へと戻った。その様子が面白くて可笑しくて、ちらりと兵士を見て一緒に笑いあった。

わたしはいつでも、あなたのとなりに。それがたとえ、世界の果てでも。

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