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鬼灯が頭を撫でてくれる


「なんか、鮮花様がいると中和される」
「…ん?」

閻魔殿休憩処、座敷童たちと遊んでいるとそんなことを言われた。見れば何時の間にそこにいたのか、唐瓜くんがちょこんと立っていた。

「どうしたの唐瓜くん。中和ってなにが?」
「え、あ いや! ほら、座敷童たちって基本的に表情がないじゃないですか…目も焦点あってないし、声も虚ろで… 俺まだちょっとこわくて」

確かに。ちらりと座敷童をみれば、二人は気にした様子もなくクレヨンで画用紙に絵を描いている。視線に気づいた二子が、机に乗り出してくいくいと着物の袖を引いて来た。

「鮮花様、描いて」
「うん、何を描いてほしい?」
「チャイニーズパンダ」
「じゃあ赤いクレヨンちょうだいな」

「ん」と一子がクレヨンをくれる。それを受け取って画用紙に滑らせた。

「…でも、鮮花様といるとあんまりこわくないんですよね」
「どうしてだろうね、わたしがヘラヘラ笑ってるからかな?」
「う、うーん、 でも、鮮花様がニコニコしてくれてるからってのはあるかもしれないッス!」
「そういってくれるのは唐瓜くんくらいだよ、 鬼灯様にはよく締まりがないって怒られるもの」

ごそごそと膝の上にのる二子の頭を撫でながら、ついでに普通のパンダも描いていく。一子も気になったのか迎え側から身を乗り出してきた。指でさして「パンダ」「チャイニーズパンダ」という様は、まるで普通の子どものようだった。

「それにしても懐いてますね、いったい何時の間に…」
「鮮花様好き」
「遊んでくれる」
「時間がある時だけね」
「いつもある」
「なにやらせても満足にできないからだって、鬼灯様いってた」

(今度グーで殴ろう)
(あ、いま絶対物騒なこと考えてるな…)

メラッと報復の火を燃やしながらお絵かきを続ける。どうせならと唐瓜くんにもお絵かきを進めたあたりで、まるで示し合わせたように鬼灯様と茄子くんが来た。

「いたいた唐瓜〜」
「茄子! どこにいってたんだよ、探してたんだぞ!」
「その割に和やかにお絵かきしていらっしゃったようですが」
「うぐっ これは、つい…」
「俺もかく! 良いですか、鮮花様」
「どうぞ」

茄子画伯が訪れたことで、座敷童はわっと彼に寄った。彼の描くものはどれも個性的で、その独特なセンスはぴたりと座敷童のなにかにそぐうようだ。わいわいし始めた彼らを余所に正座を崩すと、ぬっと横から黒いものが寄って来た。

「鬼灯様、お疲れ様です。お昼は食べましたか?」
「はい、鮮花さんは」
「いただきました」
「珍しく食後に彼女たちが訪れないもので探していました。 鮮花さん、随分と打ち解けたようで」
「おかげさまです」
「子どもに好かれますよね、あなた。 他はてんでできないくせに」
「流石のわたしもグーでいきますよ?」
「喜んでお受けしましょう。常々、あなたにはそういう気概が足りないと思っていた所です。もっと反骨精神を見せなさい、なんでも頷かない。日本人の手本か」
「一応もと日本人の鬼です」

しれと言えば、鬼灯様は溜息をひとつ。

「あなたのそういうところ、実はかなりガッカリきてます」
「勝手に期待して置いてなにを。男の人のそういうところ、わたしもガッカリしてなりません」
「口だけは達者ですよね。それが業務にも生かせれば、わたしも文句はないのですが」
「余計なお世話です」
「心配してさしあげているんですよ。 また下らないポカやらかして、目に余るほど落ち込まれてはめいわ…… すでにやらかした後でしたか」

無言で机に伏したわたしに、鬼灯様の静かな言葉が突き刺さる。うるさいやい。

「すごく傷つきました、慰謝料を請求します」
「嫌ですよ」
「ではセクハラで訴えます」
「わたしにだって選ぶ権利というものがあります」
「あ、またセクハラ」
「それ言えば無敵みたいな風潮やめません? 男の獄卒を代表して申し上げます、大変迷惑です」
「では慰めてください」
「どうやって」

「あたま、なでてくださいな」

ずいと寄れば、鬼灯様が仰々しく肩をすくめた。だがするりと大きな手で頭を撫でてくれる。ほつれた髪を梳いて、耳にかけて。そうして指と手の甲で何度も頭をなでてくれた。嬉しくで顔がほころぶ、少しだけ恥ずかしくて口元を袖口で隠した。

「ふふ…」
「…これ、楽しいですか?」
「はい、とっても まるでご褒美です」
「わたしにとっては罰ゲームみたいなものですが」
「ならもっと撫でて下さい、罰ゲームなら王さまの言うことはきくべきですよ」
「誰が王さまですか、この貧民が」

調子に乗った。ぎゅっと頬をつねられて怒られる。ごめんなひゃいというも、顔がへらへらとして今一真剣みがないのだろう。だけど鬼灯様は諦めたように手を放し、また少しだけ頭を撫でてくれた。

「まるでまほうのてね」
「…ほめ過ぎですよ」

だってこんなにも、心があたたかくなる。
それはまるでほおずきの実を抱くようだった。

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