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六道骸と運命の恋をする


「僕は…自分の選んだこの道を、引き返したいと思うことなんてありえないと思っていました」

子ども達が駆け回って遊ぶ昼下がりの公園で、人の膝に勝手に頭を置いて寝転がっている六道くんが不意にそんなことを言い出した。
心地よい陽気に頭もやられたか?あ、それはもう手遅れか。そんな事を思いながら、私の髪を弄る六道くんに頷いて見せた。取り敢えず話させておけ。

「だってこの道しかありえなかったんです。僕に巣食っている感情はそれが全ての起源だから、僕は他ならぬ僕のために僕であらなければならなかった」
「へー」
「ねえ、聞いてるんですか汐? ちゃんと聞かないとお腹くすぐりますよ」
「やめて」

腹を擽ろうとする六道くんの手をパンと叩く。
すると黙ってと手をひっこめた。今日は大人しいな、とごそごそ体制を入れ替える六道くんに思う。何が楽しいのか私の膝に頭を押し付け、腹部に鼻先を埋めて満足そうに溜息を着く。変態め。

「…貴方がそうさせたのに、どうして汐は僕みたいになってくれないんでしょう」
「私が?冗談」
「本当です。今だから言いますけど、僕汐と初めて会った時 衝撃で暫く動けませんでしたよ? 30分路地の真ん中で立ち尽くした挙句、ふらふらと道端に体育座りで3時間考え込んでしまった僕を労わって下さい」
「何してんのアンタ」
「僕も良く解りません。ただ…貴方を見た瞬間から、僕は可笑しくなってしまった。…過去を後悔する程に、」

本を退けてするりと伸びて来た手が私の頬を撫でた。
煩わしくて眉を寄せて彼を見れば、赤と青のオッドアイが神妙な色を秘めて私を見ていた。

「でも僕には、やらなければならいことがある」
「___」
「その為には、この気持ちは、この感情は、この願いも、この出会いも全て____なんと不毛なことでしょうか」

くしゃりと、笑う六道くんに私は何も言わなかった。
いや言えなかったが正しい。だって、私は彼のことを何も知らない。

彼は道端で会って、何時しかストーカーの様に付き纏って来て、気づいたら私のお気に入りのスポット把握されて、こうして当たり前の様に触れ合うことを強要して来た男。名前は六道骸、私より1つ年上の隣町の男の子。私はそれしか本当に知らないのだ。

恋人の様に甘いのに、他人の様に溶け敢え無いのが、私と彼の距離。

「その…やらないといけないことはどれくらいで終わるの?」

自分から聞いたのは少し癪で、読んでいた本を六道くんの顔に被せる。
彼は「見えないです」と本をぺいっと奪うと、ぽんと自分の胸の上に置きながら答えた。

「汐がそうやって聞いてくるのは珍しいですね」
「良いから答えろ」
「はいはい、全くツンデレなんですから。…どれ位かかるでしょうか、僕にも解りません。我ながら果て無い野望を抱いてしまったと笑いたくなります。…僕の命が果てても、成し遂げることは叶うかどうか」
「身の程を知れ馬鹿が」
「クハッ手厳しいですね、その通りです」

クスクスと可笑しそうに笑って、六道は続ける。

「今まで…漠然とした感覚が」
「?」

「考えもしなかった未来が、見える様になりました」

ゆるりと起き上がった六道くんが、赤と青のオッドアイを私を向ける。その大きな手が伸ばされて、私の前髪を払いそっと耳の裏をなぞった。

「そこでは必ず僕の隣に貴方がいる。一緒に笑って、泣いて、喧嘩して、そんな当たり障りのない日々を、ただあたり前に過ごすだけの夢を見るんです。でも目が覚めてそれが夢だと思う度に安堵する自分がいます。それが僕に残ってる最後の良心です」
「六道くんに良心が残っていたんだ」
「ええ、僕も驚きです」
「…」
「本当に可笑しな話です。それが貴方でなければどんなに良かったか、」

こつんと、額が合わさった。


「貴方でなければ駄目なのに」


声は出なかった。代わりに、真っ直ぐ彼の目を見れば、どこか苦しそうに泣き出しそうに笑うばかりだ、

「そんな目で見ないで、全て奪い去りたくなる」

まるでどこかの物語で呼んだ、ヒーローの語り口。
それでもこの男にはそれがそぐう。浮世離れした雰囲気か、今にも消えそうな儚さがそれを見せるのかは解らない。ただ、解っている事はただ一つ。私は彼を留める術を、何も持っていないということ。

「約束の1つで、人が縛られたら良かったのに」
「約束が嫌い?」
「ええ。 叶わないと解っていますから、…そんなもの、やはり不毛でしょう?」

「不毛じゃない」

するりと出て来た言葉に、驚いたのは私だった。
湧きあがる衝動と、言いようのない頭の熱にきっと心が浮かされているのだ。だからこんなことが言える。だからこそ、今なら言える。

「不毛じゃない。約束は守れなくても良い、守ろうとしてくれるならそれだけで良い。だから不毛なんて言うな。出会いも、感情も、気持ちも全部_____私から生まれた六道くんの中の六道くんを殺したりすることは、私が許さない」
「…貴方は、強い人だ」

でも良いんですか、と六道くんは続ける。
真っ赤な唇かた紡がれる牙の様な言葉は、まるで蛇の囁きだと思った。

「勘違いしてしまいますよ。男は愚かな生き物ですから、」
「奪い去りたくなる?」
「今すぐにでも」
「じゃあ必ず、奪い去りに来い。待っていてやるから」
「……何時になるか、解りませんよ」
「知ってる」
「……来れるかどうかも、解りませんよ…」
「それでも待っていてやる」

「ですが」
「でももだってもない。答えは二つに一つだ。アンタは私に『待っていて欲しいの』?」

答えは無かった。
ただ、こくりと一度だけ力強く頷く彼を私は確かに見届けた。泣き出しそうな大きな子供の頬をそっと撫でてやり、むりやり膝に押し戻した。

「なら待っていてやる。死ぬまで待っていてやるから、死んでも迎えに来い。他の女に現を抜かしたり浮気しない限りは…どんな無様な様で帰って来たとしても、抱きしめてやるから」

六道くんは、そうそうに私の本で顔を隠してしまったので、どんな顔でいてくれたのかは解らない。ただ、真っ赤な耳と私の服を握る手に、きっとこれで良かったと私は思った。


(…我ながら、“不毛な”恋をしてしまった)




結局、その後から7年ほど私は六道くんに会うことは無かった。
だがある日思い出したようにひょっこり現れた彼に私は聞いた「不毛な恋は止めてしまったの」彼はやっぱり泣きそうな子供の顔で答えた。

「今からでも、続けて、行きたい…です。…汐、」

そう言って顔を真っ赤にする六道骸は、7年経っても何も変わっていなかった。
だから私は思い切り腕を広げてやった。それに彼はおずおずと腕を伸ばして来たので、思い切りグーで綺麗な顔を殴った。

「いくらなんでも待たせすぎだ、馬鹿」
「…すみません」
「痛いか? 私の青春を無駄にした罰だ。一発じゃ足りんだろう」
「いえ…十分に響きました。良い右ストレートです」
「そうか、なら良い子良い子してやろう」
「え」

ちゅっと患部にキスをする。すると赤くはれ上がった患部以上顔が真っ赤になった。藍色の髪に必死に隠そうとしている揺らぐオッドアイが可愛くて、私は漸く7年越しの思いを告げる決心が着いた。

「実は、私も君に会った後3時間考え込んだんだ」
「え」
「もう一度、君に逢いたくて仕方なかった。私の運命の人、」

次の瞬間、掻き抱かれた体は力加減を忘れた馬鹿の所為で痛かった。甘さなんてへったくれもないそれでも、私は無性に嬉しくて破顔した。





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