六道骸とできちゃった結婚しちゃう
とある朝方。
なんとなく買っておいた妊娠検査薬を使ったら陽性だった。
トイレで硬直して暫く。
あまりにも長いと心配してきたむくろがそれに気づいて硬直。直後身悶えて蹲った。
「結婚しましょう」
とりあえず。
2人で落ち着いてココアを飲もうということになった。コーヒーではなくココアというあたり、わたしたちだなぁなんて和んでいたらむくろが爆弾発言をかました。ココアが逆流しかけた。
「え、」
「…順番が逆なのは承知です。こんなことなら、もっと早く渡しておくべきでした」
いいながら、むくろがするりと黒い箱を取り出す。ちょ、どこからだしたし。やっぱり職業マジシャンだろ。なんて頭の中でギャグに走っておきながら、心はばくばく汗ダラダラの超緊張状態だ。え、ちょ。まさかその箱は…!と、期待せずにはいられないわけで。
「汐が希望したとおり…僕の給料きっかり三か月分です」
「…」
ごくりと、息を呑む。わたしにとって目の前のそれはパンドラの箱だ。いろんな意味で。
「…あ、あけても?」
「どうぞ」
そっとむくろの手からそれを受け取る。どきどきぢながら、いやに手触りが良い箱を撫でた。大きさは掌くらい、ってことはや、やっぱり…。意を決して、わたしは箱を開けた。
中には藍色の宝石が輝くシルバーリングが寝かされていた。
う、うおおおおおおお!思わず箱ごと上にあげて斜めから下からとあらゆる角度から観察していると「…つけないんですか?」と難しい顔をしたむくろに急かされた。あ、ごめんなさい。
「…えっと、つけて…いいのかな?」
「…君がつけないなら、窓から放り投げて捨てます」
「え、もったいない!」
「勿体なくないです。全く…そもそも僕の趣味じゃないんです、こんなもの」
一人で勝手に腹をたててむくろがわたしの手から箱を浚った。ああ、と惜しむ暇もない。そこから指を取り出し、何時の間にか絡め取られていた手にするりと嵌められた。もちろん____左手の薬指に。
「…ぴったり、」
「…オーダーメイドですから」
「…わたし、いいの…?」
「…ですから、言っているでしょう」
こんなもの、君が欲しいと言わなければそもそも買いにだって行きません。
しばし沈黙。次に出た声は、絞り出すような「すき」の言葉だった。何故か目の前が海の中みたいに水浸しになって、良く見えなくなってしまった。だからむくろがどんな顔をしていたのかわからない。でも、すぐに抱きしめてくれた熱い腕と、掠れた「ぼくもです」という声に、わたしの心はどうしうようもなく満たされた。
それだけで十分だったの。