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六道骸がくれた浴衣で夏祭りに行く


「汐、今日学校が終わったらツナの家に来い」
「さも当然のように話しかけてこないでください…一応初対面ですよ、わたしたち」
「うちの守護者誑し込んでおいて今更なに言ってやがる。良いから来いよ、来なかったら死刑だぞ」
「なにそれこわい」

だが、わたしには選択肢などない。
大人しく学校帰りにトテトテと沢田家に向かう。家とか知らないので、帰りがけに捕獲した山本くんに訊いた。どうやら彼も部活帰りに寄るらしく、後で合流という要らない約束までさせられた。不幸だ。

「ここ、かな…」
「おう、良く来たな」
「脅した本人がなにを…」
「まあとにかく入れ、ママンが待ちかねているぞ」

「はあ…?」

なぜかひょっとこのお面を被っているリボーンくんに連れられて、なぜ大して話した事のない沢田家のインターホンを鳴らした。

「お、おじゃましま、」
「いらっしゃーーい! 待ってたわよ!」
「!?」
「あなたが汐ちゃんね、リボーンちゃんから話は聞いてるわ。ほらほら、中に入りなさいな。もう準備はできてるのよー!」
「え、ちょ、あのっ」

沢田くんのお母さんは、沢田くんの血を感じさせないほど押しが強かった。
奥の部屋に連れて行かれると、沢田君のお母さんはいそいそと紙袋を開き始めた。そうして取り出したのは、______、

「これ___、」






音もなく開いた玄関に、しかしリボーンは驚いた風もなくやって来た訪問者をニマリと迎えた。

「遅かったな、ムクロ」
「…遅いも何も、約束を取り付けたのは僕ですが」

「うわっなんでいるの!?」

突然の訪問者に、学校帰りの綱吉が麦茶をひっくりかえした。リボーンがすばやくハリセンで物理制裁を加えたが、骸は感知するところでないとしれっとした顔をしている。

「それにしても今日は暑いですね。梅雨という季節は本当に面倒だ」
「とかいいながらしれっとうちの冷蔵庫開けてるし…」
「初めてでもねーくせにグチグチいうな」
「おやおや、いちおうお仲間なんですからもう少しいたわってくれても良いじゃないですか。昨日、僕に依頼された情報はそう簡単に入手できるものではありませんよ」
「ちょっとまって、それオレが買った缶コーラ……って依頼!?情報ってなに!?」
「おう、あれは中々役に立ったぞ」
「リボーン! お前また面倒なことしてるんじゃないだろうな!?」

綱吉が蒼白な顔でリボーンに掴みかかろうとするが、綺麗に背負い投げされて終わった。その様子を骸が(綱吉の)缶コーラを飲みながら観戦していると、ひょっこりと奈々がのれんの隙間から顔を出した。

「あら、もーツっくん何を暴れてるの。お客さんの前で失礼でしょ!」
「どうみたらそう思うの!? オレどうみても投げ飛ばされた格好してるでしょ!?」
「見っとも無い声ださないの。 うふふ、昨日ぶりね六道くん」
「はい。お世話になっています、奈々さん」
「なんでしりあい!?」

のんびりと挨拶を交わす母親と骸という異様な光景に動揺していると、奈々の後でのれんが翻る。そうしてこそりと窺うように顔を覗かせた相手に綱吉は目を丸くする。

「え、あ、汐ちゃん!?」
「…あ、おじゃましてます。沢田くん」
「おじゃましてますってっ! どうして汐ちゃんがここ、にっ……」

続けるはずの言葉は、綱吉の姿を認め安心した顔でリビングに入って来た汐を前に引っ込んでしまった。

ひらりとゆれる涼やかな白地。散らばる小振りの青い朝顔。藤色の縦縞が入った帯はみやこ結びされ、黄色の帯留めには象牙調の蝶が停まっていた。何時も肩口下まで降ろされている髪は結い上げられ、三つ編みとともにピンで纏められていた。

どちらかといえば大人っぽいしっとりとした浴衣姿に、思わず頬が照る。愛らしい彼の同級生とは違う。幼い言動のなかでも大人びた美しさを纏う汐の持ち味を、良く引き出す装いだ。ようするに、_____ヤバイかなり似合っている。

「ふっふー! かわいいでしょ、ママが着付けたのよー!」
「え、っちょ、なにやってるの母さん!?」
「あのね、最近できたかわいい恋人と日本の風物詩を楽しみたいからってお願いされちゃったの。すっごくイケメンの男の子にね」

汐の肩に手をそえ、後ろからぱちんっとウィンクする奈々。それはしれっとコーラを飲んでいる骸に寄せられており。綱吉は大祖父さまから受け継いだ超直感で全てを理解し、汐もようやく纏っているものの出所が解り目を丸くした。リボーンは今にも十人そこら殺しにいきそうな顔でかなり切れの良い舌打ちをした。

「………なんですか、」
「…いや、俺はなにも」
「いつもに増して顔がムカつく」
「さり気に文句言うの止めろよな!」

オレだって傷つくんだぞ!と涙ながらに訴える綱吉を無視して、骸はスタスタと奈々と汐の元へと歩く。それにビクリと震えた汐だが、奈々はにこにこと嬉しそうに笑っていた。

「ありがとうございます、奈々さん。助かりました」
「このくらいお安い御用よ。わたしも女の子の着付けができて楽しかったわ、ねっ汐ちゃん」
「え、あ、はい。いろいろ勉強になりました」
「んもーかわいい!うちの娘にしちゃいたい!」

感極まってぎゅうううと抱きしめる奈々に、汐ももごもごと照れ臭そうにしながら受け止める。そんな微笑ましい二人の姿に、骸は薄く笑いながら変らない声で言った。

「それはできません、汐は僕のお嫁さんですから」
「あら」

「諦めてください、奈々さん。どうにも僕は、この子にしか心動かされないようなので」







「ほう、これがお祭りですか。噂には聴いていましたが、思っていたよりも雑多としていますね」
「……」
「いつまでそうして俯いているつもりですか。いくらそうしても真っ赤な耳が丸見えなので意味ないですよ」
「っばか! むくろのばかっもうしらないからもうしらないからっ」

「はいはい、全部ぼくが悪いですからそろそろ泣き止んで笑ってください。Mio ipomea.」
「やだそれわかんないけどぜったい恥ずかしいことばだ…!!」

同級生の母親の前でまさかの告白をされ、汐の心臓はいまにも暴走爆発寸前だ。情けなく瞳を揺らして顔を真っ赤にして骸を見上げる。その顔は情けないし、焦って汗いっぱいかいて髪の毛もぐちゃぐちゃに違いない。…きっと千年の恋も冷めてしまうほどに。

そう思うとさらに悲しくて、くしゃくしゃと顔が歪んでしまう。

骸のシャツをぎゅううと握り締めながら泣きだす五秒前の汐に、さすがの彼も哀れと思ってくれたのか。細い癖にいやに骨ばった人差し指の腹が優しく目元を撫でてくれる。そうして親指で汗を拭いぱっぱと前髪を整えてくれた。突然のことに目をぱちくりさせて顔を上げると、骸が仕上げといわんばかりにちうと額に唇を落とした。薄い唇の感触に、またぶわりと熱が広がる。

「むっ、むくっなんでえええ」
「ほら行きますよ。とりあえず金魚すくいと射的とチョコバナナですね。楽しみです」
「う、うううっ〜…!」

犬のように唸りながらも、骸の手に大人しく引きずられてくれる汐。それが妙にこそばゆく、少し握った手に力を込める。すると気づいた汐が、戸惑いながらもゆるりとそれに答えてくれて、二人で_____すこしずつ確かめる様に、手を絡めた。そうして赤い鳥居をくぐると、どこからともなく祭林の音が響く。所せましと集まる人と店の灯りに溶ける様にして、ふたりは寄り添いあった。






「ツナ、朝顔の花言葉をしってるか」
「? なんだよ突然…そんなの知らないし、そもそも興味ないよ」
「だからお前はダメなんだぞ。少しはムクロを見習え」
「なんで今その話しするの!?やめようよ、馬に蹴られて死にたくない!」
「朝顔の花言葉は_____」


もっと生きたい、君と。
この愛着は深く。二人は固いきずなで結ばれている。かくも愚かな男の人生____嗚呼、今日も僕は、あなたに絡み付いて離れられそうにない。




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