鋭く空気を切り裂く槍が姜維の側頭部を狙う。これをかろうじて自身の槍で捌くと、空いた趙雲の脇腹を狙う。
 しかし降ってきた槍がこれをすかさず防ぐ。硬い音が響き、びりびりと槍を持つ手にしびれが走った。
 今姜維が手合わせしている相手は、同じ槍の使い手として尊敬している人物の一人、趙雲である。両者とも手にしているのはいつも戦場で命を預けている槍ではなく訓練用のものだ。しかしそれもまるで本物のような鋭さを帯びる。少しでも気を抜けば突き殺されてしまいそうだ。

 趙雲の槍はどちらかと言えばその技の鮮やかさが恐ろしいと姜維は感じていた。こちらの攻撃をひとつひとつ確実に捌き切り、隙を見逃さずにとらえる。こちらがそれを怖がれば、逆に鮮やかに食われてしまう。畳み掛けるように攻撃し、相手を圧倒する馬超の槍とは印象は違えど恐ろしいことには変わりない。

 もうどれほど経っただろうか。かなり長い時間が経っているような気がするし、まだほとんど経っていないような気もする。

「っ!!?」
 と、突如趙雲の纏う雰囲気が変わった。鮮やかさが鳴りを潜め、代わりに獰猛なほどの威圧感。
(これ、は―――――!?)
 驚愕は焦りとなり姜維の集中力を食いつぶす。そしてそれを見逃す趙雲ではない。次々と繰り出される猛攻を、それでもひとつふたつとぎりぎりのところで凌いでいた姜維だが、ついに手にしていた槍を弾かれ、相手の槍の先端が喉へ突きつけられる。からん、と後ろでひとつ硬い音。
「…参りました」
 尊敬と悔しさが半々といった声でつぶやくと、張り詰めていた空気がたちまち緩んで穏やかになる。槍の先をさげた趙雲の息がほとんど乱れていないことにも悔しさが少し。
「腕をあげたな姜維。気を抜けば負けてしまいそうでひやりとした」
「そんな、私などまだまだです」
 先程までの鋭さはすっかり消え失せ、代わりに趙雲はいつもの笑みを浮かべながらぽつぽつと気になった点をあげていく。それを時に頷きながら聞いていると「そういえば、」と姜維が手にしている槍に目をやった。
「気が逸れたときがあっただろう?どうしたんだ?」
 何のことかすぐにわかった。



半端だからごみばこいき。趙雲と姜維が仕合っているのが書きたかったやつ。
実はこれ馬趙前提で趙雲と馬超がいっつも一緒にいて、暇さえあれば仕合っているから馬超の癖が若干うつってきたよって話になるはずだった。

2013/4/29